第4話 失敗?

 昼休み、俺は迷っていた。

 カーストの高いやつらはほとんど、教室で昼食を食わない。ならばどこで食べるか。

 王道の食堂、中庭、図書室、部室……などなどか。部室……杏奈さんいるかな?


 気がつくと、俺の足は文芸部室に向かっていた。


 コンコンと扉をノックする。ノブに触れるが、開かない。

 開いてないか、と思ったとき、ガチャリと鍵と扉が開かれた。そこからは女神、杏奈さんが現れた。

 しかし様子がおかしい。


 「杏子さん……こんにち――」

 「部員以外は立ち入らないでください」

 「え……」

 

 バタンと閉められて、鍵もかけられた。


 「そんな……」


 俺はあんな不機嫌な杏奈さんを見たかったんじゃない。天使のように微笑むあの顔がただ見たかった。

 でも……よく考えたらそうだよな。まだ入部すらしてないのに、昨日なんてあんな慣れ慣れしく接してしまった。


 とぼとぼと、他の場所に行く気力すらでず、教室に行き自分の席へ……


 「美鈴の卵焼きもらい!」「ああ!? ちょっとー!」


 俺の席が富永さんの友人によって侵食していた。


 「はあ……便所飯か……」


 とぼとぼと無駄に教室から近いトイレに入る。

 よし、誰もいなくてよかっ――


 「なんだい?」

 「――っ!?」


 トイレの奥の窓。そこに1人の男子生徒が座っていた。

 ただ座ってるだけならまだいい。そいつは、体を外側に向けていた。つまり、足を踏み外したらこの3階から落ちる。


 「あ、危ないぞ?」

 「人生とは常に、リスクを負っているものだ」


 こちらを振り向き、爽やかな笑顔をする。どこか見覚えのある顔だが、全く思い出せない。

 校則など眼中にないほど着崩した制服、しかし髪はあのギャルと違って自然の、生まれつきの茶髪、しかし顔は爽やかイケメンでありながらも、日本顔だ。


 「君はここで何を……?」


 ただ本当に疑問で聞いた。


 「こっち来いよ」


 手招きされ、恐る恐る彼の方へ近づく。

 すると俺が手の届く距離に来たのを確認すると、肩を抱き寄せて、「見てみ」と窓の外を指さした。


 「こっから学校中のいろんなところが見えるんだ」


 たしかに、他の校舎、体育館、グラウンドが奇跡的にすべて視界に収まるようになっていた。


 「ほらあそこ。カップルがお互いあーんしてる」

 「なに覗いて――」

 「次はあっち。昼休みなのにバスケの練習してる。そっちは友達同士でじゃれてる。向こうは先生に隠れて漫画読んでる」


 彼は次々と目を輝かせながらいろんなところを指さした。

 そして最後に、その指は俺に向いた。


 「ここは新しい出会いをしてる」


 その爽やか笑顔は、俺が女なら一発で落ちていた。俺には、あまりにも眩しすぎた。


 「ここなら、いろんな青春を見ることができる。東川はどんな青春が見たい?」

 「え……何で名前……」

 「なんでって、同じクラスじゃねえか」

 「マジ?」


 記憶を振り返ってみる。

 ……そして思い出した。こいつが授業中に弁当を食いだした狂人だったということを。


 「知らなかったか? なら改めましてだ、俺の名は西山奏。西山奏の西山に、西山奏の奏だ」

 「お、おう……」


 戸惑いながらも、差し出された手をとってしまった。

 すると西山はひょいとトイレの床に着地した。


 「これで友達だ」

 「は……?」


 そして手を握られたまま、出口のの方へ走り出した。


 「さあ、行こう」

 「い、行くってどこに……!?」

 「お前に便所飯なんて似合わねえよ」

 「は……?」


 この一瞬で何を知ったんだと言いたかったが、こいつには通じないとすぐにわかった。

 

 こうして俺と西山は、立ち入り禁止の屋上で飯を食うこととなった。


 「「あ……」」

 「あ?」


 俺と西山が屋上に着いた時、立ち入り禁止のはずなのに先客がいた。

 その人は煙草の煙を吐きながら、ため息を吐く。


 「神宮寺先生……」

 「お前ら、職員室に来い」

 「東川、逃げるぞ!」

 「お、おう」


 俺は西山に手を引かれて、学校中を駆け回った。


 「こら待て!」

 

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