幕間1
イザベラSS1
テオが目を覚ますと、隣にはイザベラが寝ていた。
「先生、おはよ……昨日は遅くまで、その……してたから、眠いわね」
照れたように頬を染めながら、はにかんでみせるイザベラ。
イザベラは一糸纏わぬ姿だった。
薄い布団で前面だけ覆っているものの、手触りが良さそうな絹のような肌が見えてしまっている。
形が崩れていない柔らかそうな胸。
イザベラが両腕で抱え込むように身じろぎすると、むにゅと溢れそうなほど大きい。胸から腰にかけては、きゅっと引き締まっており、可愛いおへそがちょこんと鎮座しているのが見える。「あまり見ないで……」と恥ずかしそうに視線を彷徨わせたあと、イザベラは言う。
「そういえば、先生、お腹空いてるでしょ? 私がつくってあげるわ。先生は寝てて……その、昨日のアレで疲れてるでしょ?」
イザベラは頬を赤くしたまま、ベッドからいそいそと起き上がろうとする。
だが、テオはそうはさせなかった。
イザベラの細腕を掴むと、彼女のベッドに押し戻した。
ぼすん、とベッドに舞い戻るイザベラ。
薄い布団がはだけて裸が露わになる。
自然と、テオが彼女を押し倒すような格好になっていた。
テオの無言の視線に、イザベラは耳まで朱色にしながら囁くように言う。
「……また、するの?」
言うや否や、目を瞑ってちょっとだけ唇を尖らせるイザベラ。
まるで、何かを待っているかのように。
そこでもう──テオは我慢できなかった。
テオはベッドから立ち上がると、部屋の外に出ていく。
運良く警備員が廊下に通りかかったところで、テオは冷たい声で言う。
「ああ、ちょうどよかった。僕の部屋に不法侵入者がいて、わけのわからないのことをずっと言っている。おそらく精神系統の魔術にかかってる可能性が高い。早急に追い出して病院に連れていってくれ」
一分後。
「先生、照れてるからってそんな反応しなくても……あっ、嘘、嘘です! だから病院に連れて行こうとしないで! 勝手に部屋とベッドに入り込んだのは謝るから……わかったわ、そっちがその気ならやってやろうじゃないの! 徹底抗戦よ! 絶対先生のもとからは離れないからあっやっぱ無理ごめんなさいいやああああああああああ!」
イザベラは断末魔とともに、警備員に引きずられて消えていった。
◇ ◇ ◇
魔族狩りの事件から一週間が経とうとしていた。
今日は休日。
授業も何もない、数少ない心休まる日。
ここ最近、テオは働き詰めだった。
デイジーの監視。シュエの覚醒のため、舞台を整えようと奔走していた。徹夜で寝なかった日も多い。
それがようやく、つい先日区切りがついたのだ。
やや想定外の出来事は起こったものの、シュエの覚醒には至った。
自分に及第点はあげてもいいのだろう。
だからこそ、今日の休日だけは死守したかったのだが。
「まったく警備員の質も低くなったものね」
教職員寮、テオの部屋。
警備員に説明してきたのか、あるいは逃げ切ってきたのか。
イザベラは再び戻ってくると、ふぁさっと金髪を掻き上げながら窓から遠くを見つめる。
「私がどれだけ丁寧に説明しても、先生と私の仲の良さを理解できないなんて。国語力が低いんじゃないかしら」
「…………」
「あれじゃあ、実際に賊が襲ってきたときも苦労するでしょうね。緊急時には正確な情報のやり取りが必要だっていうのに。私が説明するたびに、何故か可哀想な子を見るような感じの雰囲気を出してきて……あの警備員、クビにした方がいいんじゃない?」
いや、問答無用でお前を追い出そうとした時点でかなり優秀だぞ。
とは思ったものの、テオがそれを口に出すことはなかった。
目の前の少女に言っても無駄だからだ。
代わりに、テオは諭すようにイザベラに言う。
「イザベラ。今日、僕は休みなんだ」
「ええ、そうね? だから何する?」
きょとんとした表情でそう返してくるイザベラ。
まったく通じていなかった。
仕方ないので、今度は強めに言う。
「イザベラ、残念だが……お前のターンはもう終わったんだ」
「ターンってなによ!」
イザベラが叫ぶ。
だが、言葉通りの意味だ。
テオが教え子たちに関われるのは、一年という長くも短い期間しかない。
イザベラだけに注力しているわけにもいかないのだ。
だからこそ、テオは今日は休息や他の生徒の分析に時間を使う必要があったのだが。
「でも、私、頑張ったのよ?」
イザベラは一向に部屋から出ていく様子はなかった。
イザベラは手で自身の胸を押さえながら言い放つ。
「魔族狩りの事件で、先生の言う通り色々やったじゃない。冒険者のあの女を殺すときなんか、そのために森の中に何時間も隠れて、虫にもたくさん刺されたのよ? ご褒美があってもいいと思うのだけど」
「…………」
「ごっ褒美! ごっ褒美! ごっ褒美!」
テンポよく褒美を強請ってくるイザベラ。
衝動的に魔術を撃ちこみたくなる。
テオは生徒を甘やかすつもりは一切ない。
だが、拗ねられて、後々面倒になっても困る。
──仕方、ないか。
対イザベラ用に考えていた秘策。
どうやら、ここで使うしかないようだ。
テオは覚悟を決めると、部屋の奥からとあるものを引っ張り出す。
「イザベラ、これをつけろ」
「えっ……め、目隠しとロープっ?」
テオが手渡した物を見た途端、色めき立つイザベラ。
「め、目隠しとロープってそういうことよね……? え、で、でも、先生いいの……? そ、そんなことしたら──」
「嫌なら仕方ないな。ご褒美はなしということに──」
「う、嘘、嘘よ! このイザベラ=ルミエール、そんなことで臆したりしない! ここで逃げたらご先祖様にも顔向けできないわ! さあ、かかってきなさい!」
覚悟を決めたように頷くイザベラ。
承諾も取れたので、テオは容赦なくイザベラに目隠しをつけてロープで縛っていく。
「あっ、ろ、ロープがそんなにきつく……あ、あれ、先生ちょっときつすぎない?」
「いや。このぐらいがちょうどいいんだ、イザベラ」
「そ、そうなの? ちょっと動けないぐらい縄がきつい気もするけど、先生が言うなら間違いないわね! あれ、先生の気配が消えたような……まさか、これが焦らしプレイ! あっ、駄目、先生! そ、そんな、いつ来るかわからないなんて……! あっ、先生、そんな目で私を見ないで! イザベラは悪い子です……!」
曝け出している肌をすべて真っ赤にして、よくわからないことを口走るイザベラ。
イザベラは椅子に縄で縛り付けられていた。
当分はこの状態で時間を稼げるだろう。
そう簡単に外れないようにも強く縛っている。
勝手に盛り上がっているイザベラから視線を離し、テオは自分の部屋を後にして休日を守り切ったのだった。
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