2.

          *



 

 朝7時過ぎ。島唯一の空港。

 ヴァンサンの部下を人間爆弾にして行った閉鎖は、手際良く解除され、空港は夜中の混乱を一切匂わせず、朝を迎えた。


 滑走路を走る飛行機は、次第に頭を上げて、空を目指し、地上から車輪を離す。

 まだ低い位置にある太陽は、昼間に比べて控えめな光を地上に注ぐ。薄水色の空には、色の薄い雲がちらほらと浮いている。

 

 その空を、白い機体は悠然と飛び立っていった。

 

「たぶん、あれだな」

 空港のロビーから、飛び立ったばかりの飛行機を見ていた梟は、小さく呟く。

 

「何がです?」

 隣にいる渕之辺 みちるは、着替えと簡単な応急処置をした姿で、梟の隣に立っている。

 

「ヴァンサン・ブラックとオーナーを移送する飛行機」

 質問にはすぐ答えず、さっき飛び立った飛行機が見えなくなるまで見届けてから、梟は答える。

 

「……今回は、CIAに協力してもらえて、助かりましたね」

 水色の空と、ぼんやりとした雲の形を見ていた渕之辺 みちるの黒い瞳は、不意に梟を見た。

 その言葉に頷くでもなく、梟は胸ポケットに入っていたスマートフォンを取り出し、渕之辺 みちるに見せる。


のおかげだ」

 そのスマートフォンは、充電が切れていて、画面は見えない。

 それを見た瞬間、渕之辺 みちるの表情が、憂いを帯びた。

 

「使える手段は全部使わせてもらった」

 胸ポケットに入っていたスマートフォンは、梟の元同僚の私物だ。その元同僚は諜報担当で、各国の諜報部員とのコネクションを持っていた。


 二年半ほど前、梟はその諜報担当を手にかけた。

 

 その時、諜報担当から奪ったスマートフォンを、いつか役に立つかもしれない、と保管していた。


「……そのおかげで、あの廃屋みたいなところで話した通りの展開になった、と」

 渕之辺 みちるが浮かべた苦笑いの中には、どこか申し訳なさそうな、不安げな色が見える。




 

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