2.

          *


 


 20階の窓近く。日の出とともに突然、虹色の光がちらついた。

「光った」

 その光が合図かはわからないが、無意味に光るはずがないと信じて、アリスは引き金を引いた。

 

 虹色の光を目掛けて、撃った銃弾。

 

 アリスはスコープ越しに、銃弾が貫いていった軌跡を追う。

 

 梟の連れの女は珍しく、髪を一つに結っていた。キラキラと反対側の耳が輝くのが見えて、光っていたのは連れの女が身に着けていたアクセサリーだったのだと気づく。

 

 あの光は合図ではなかったのか、と不安がよぎったが、女は窓に向かってサムズアップしてみせた。

 スコープ越しにそれを確認したアリスは、深く息を吐く。


 

「すごすぎ……!」

 双眼鏡で20階の休憩スペースの様子を覗いていたライオニオは、双眼鏡から目を離すのも忘れ、ほうけていた。

 

「ヴァンサンの従弟いとこは……撃たなくても平気そうね」

 梟の連れの女は、戦意喪失したジェレミーをしっかりと組み敷いている。しかも、20階フロアには、ゆっくりとした足取りで、黒い人影が近づいてきているのが見えた。

 

 ――梟だ。

 

 アリスの予想通り、単独行動を始めた梟は、先に20階へ進入していた。

 

「アリス、すごいよ」

 興奮した様子のライオニオはアリスに尊敬の眼差しを向けてくる。だが、もしジェレミーを撃ち殺していたら、また違う眼差しだっただろうと、容易に想像できる。

 戦場では無条件に褒め称えられても、戦場以外では非難される。このギャップは、いつになったら埋まるのだろうか。

 

「そうでもない」

 複雑な気持ちにはなるが、純粋に褒めてくれるライオニオの言葉は、素直にありがたかった。

 

 アリスにとってライオニオは、家族であり、守りたいと思っていた「市井の人々」の具現化だ。

 ライオニオからの言葉は、アリスに大きな安心と小さな後ろ暗さを与えていた。


 アリスの胸中など置き去りにして、朝の陽射しを受けた硝子の塔は、目が眩むほど輝いていた。


 その輝きに目を細め、アリスは視線を逸らす。

 隣のライオニオの満足気な横顔を見て、そっと口元を綻ばせた。

 

 ライオニオのために何をしてやったわけではないが、この顔を見たら、これで良かったのかもしれない、と思えた。

 

 いまだに、正解はわからない。

 


 

 

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