4.
*
店内にいる島民の多くは、爆弾に
起爆に必要な回路の一本を外している。ただの金属の箱だ。その箱に、ダイナマイトが入っていると見せかける、ただの筒を繋げている。
作業の途中、時折質問が来るので、そういう時は一緒に作業に混じる。
島民の中には知った顔もいれば、知らない顔もいる。特に子供は、以前会ったとしても、お互い記憶に残っていない。
普段、本拠地にいるオーナーは、島民について何も知らない。
だが、代わりにケリーが全員を把握し、オーナーへ伝えてくれる。
島民たちも、職務に対しては真面目一辺倒のケリーを信頼しているから、手を差し伸べた。
島民たちとの関係は、ケリーが日々苦心して築いた功績。
オーナーはキッチンで甘えてくるケリーの頭を撫で、髪を指に絡める。
ケリーの、ゴールドのハイライトを入れた茶色の髪は、柔らかく艶やかだ。耳を優しく撫でると、小さく嬌声を漏らすのが、かわいらしい。
こうして会えるのは年に二度ほどだが、会えばこうしていつも、ケリーは全力で甘えてくる。今じゃなければもっと良かったのに、と悔しさが溢れてくる。
「手が込んだバリケードじゃなくていいって、あの根暗男は言ってたけど」
ケリーが上目遣いで、確認の意味を含めて尋ねてきた。
根暗男、とは言うまでもなく、梟と呼ばれる男だ。
「本当に一晩で片付くならいらない。片付かなかったら足らない」
夜が明けるまでに事態が動かなかったら、この装備では足りない。
ヴァンサン・ブラックの死もしくは白旗を上げさせるのは必須条件。
でないと、朝になってCIAが来ても、オーナーだけ連行されるだけになる。
「ヴァンサン側の人間を生きたまま捕まえて、人間爆弾にして滑走路に並べるとか、発想がとんでもない鬼畜よねぇ」
ケリーは口を尖らせる。
「発想がイカれてる」
そう言って、オーナーは顔を顰めた。
島内で生け捕りにしたヴァンサン・ブラックの手下を滑走路に並べ、飛行機で逃げようとするヴァンサンの足止めをする。
それが、梟の提案だった。
ケリーが、ヴァンサンは部下を轢き殺して離陸する、と反論すると、体に爆弾を取り付けておけばいい、と平然と答えたのだ。
「ヤツの国の戦争末期、軍が市民を人間爆弾にして放り込んだっていう噂、あながち嘘じゃないのかもしれない」
梟の国はもうない。隣国との戦争の果て、国力を失い自滅していった。
自滅前の最末期、軍が民間人を駒にした戦いを始めた、という噂が囁かれている。
梟の振る舞いを見ていると、噂が事実でも違和感はない。
オーナーはケリーの後頭部に顔を埋める。
ふわりと、自分と同じシャンプーの香りに、思わず微笑んでしまう。
「フチノベ ミチルと梟は、思っていた以上に厄介だった」
島民のおしゃべりをBGMに、オーナーはケリーの頬に唇を寄せる。
「この一件が終わったら、さっさと出て行ってもらう」
ケリーの頬に何度もキスをし、途切れに言葉を発する。言い終わると同時にケリーが振り向き、唇と唇をしっかり重ねた。
「そうだね」
納得して頷くケリーだが、言葉の端に、少しだけ残念そうな感情を乗せている。
ケリーがフチノベ ミチルを気に入っているのを、オーナーはなんとなく気づいている。ケリー自身は、気づいてはいない。
「ここまで世話してやったんだから、文句は言われない」
今後は、なるべくなら関わりたくない。
しかし今回の件を盾に、協力しろと言われれば、断れないだろう。
つくづく厄介な相手だ、とオーナーは思う。
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