3.
*
考え込むアリス。
会話が途切れて、困った顔で周囲を見回すライオニオ。
ビールジョッキの底にできた結露の水たまり。
アリスの沈黙の意味を必死に探るライオニオの意識を乱したのは、スマートフォンの着信音だった。
ライオニオは慌てた様子で、ボトムスのポケットからスマートフォンを出す。
電話の相手と、へらへらしながら会話している。強めに言われているのか、ライオニオは何度も「すみません」や「急いでやります」と電話の向こうへ言っている。
誰からの電話か、察しがついたアリスは、深い溜め息を漏らす。
「ジェレミー・ブラックから。
電話の相手と内容を、アリスにまとめて伝えた。
「そう」
依頼されている「梟の始末」が終わっていないのだから、ジェレミーとヴァンサンから何を言われるかなど、大体予測がつく。
「行きたかったら行っていいよ、ラッキーボーイ」
どこへ行け、とは言わなかった。
ヴァンサン・ブラックのいる硝子の塔でも、島を出て行ってもいい。ライオニオがこれから先どうするかは、自由に決めて良いのだから。
アリスはジョッキの底の水たまりを、虚ろな目で見つめていた。
表面張力で丸みを帯びた水たまりの輪郭に、屋台の電灯の光が映り込み、きらきらと光る。
そこにあるのはただの水。
なのに、美しいと思った。
「何言ってんの?」
ライオニオは心配そうにアリスの顔を覗き込む。
その時アリスの脳裏にフラッシュバックしたのは、クィンザクア補給基地での光景ではなかった。瓦礫の中から見つけ出した少年が自分を見た時の、あの眼の輝き。
アリスたちが座るテーブルの隣では、数人の酔っ払い客が、何杯目かわからない酒を飲み、騒いでいる。
屋台のオーディオから流れるBGMは、ヒップホップに変わっていた。屋台のスタッフが呼び込むをする声や、客の笑い声。
これが、当たり前の日常なのだろう。
生まれてからずっと戦争を経験していたアリスにとっては、馴染みのない光景だ。
あれだけ願っていた「平和」に、居場所を見出せない時はどうしたらいい。
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