2.

          *

 


 

 

 非常階段を慌ただしく降りる、黒いスーツの男が三人。

 

 硝子の塔グラス・タワーは半年前にオープンしたばかりの建築物。

 非常階段の手摺や階段のステップは真新しくて、踏み荒らすのが申し訳なくなるほどだ。


 三人は、拳銃ハンドガンにしては大振りな、いわゆる短銃身のョットガンを手にしていた。

 階段を降りる先頭の男は、息を切らしながら、ステップを一段もしくは二段飛ばしで駆けている。

 白い壁、白い電灯、白い階段。同じ景色の繰り返しになり、三人の男たちは時折、ここが何階だったか、階数を表す数字の壁飾りを一瞥して確認した。

 

 ヴァンサンたちが部下に用意したのは、97階のスーペリアルーム。

 彼らは部屋で待機していたところ、ヴァンサンから90階のフロントへ向かうよう、指示を受けた。


 残りの下り階段を降り切れば、90階というところで、駆け降りていた先頭の男は、いつしか足音が自分だけだと気づいた。

 先頭の男は手にした大振りな銃を向けながら、背後を振り向いた。

「な」

 男の振り向きざまに見たのは、至近距離で突き付けられた真っ黒な何か。

 それが銃口だと気づいた時には、引き金が引かれていた。

 後ろにいたはずの二人がどうなったのか、確認する隙もなかった。

 

 死の自覚もないまま、先頭の男はずるりと階段のステップに仰向けで倒れ込む。

 先頭の男は、最期まで気づけなかったが、91階地点で、後ろにいたはずの二人の男は折り重なって倒れていた。

 

「君たちは随分とゴツいものをお持ちで」

 死体になった男が持っていた銃器を覗き込む、切れ長の黒い瞳。


 階段に倒れた男の手にあったのは、短い銃身のショットガンだった。ドアの錠前を破壊する威力を持ち、突入作戦時などに使用される種類の銃だ。

 だが、どれだけ威力があろうと、使うタイミングを逃せば意味がない。


 

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