3.

           * 



 

「何を協力したらいい?」

 オーナーは、長い溜め息をついてから言う。

 神経を逆撫でしてくる男の言葉に、ストレスしか感じない。

 煙草が欲しい、と思ったが、ついさっき注意されたばかりで、ここは堪えるしかない。

 

 梟は、すっと真顔になると、ケリーに視線を遣る。

「兵隊を貸せ」

 これは夕方、梟が「No.7」に来た時にした会話の続きだ。

 

「ごめん、期待されてるほどの強さはないの」

「んなモン、ハナから期待してない。忠実に動く人間を揃えたいだけだ」

 ケリーの言葉に対し、梟はあっさり返す。

 ならばそれなりの数は動かせる、とケリーは答えた。

 

 オーナーは腰に回るケリーの腕をやや乱暴に解き、梟の目の前に立ちはだかる。

「一日待ってくれたら、うちのメンバーを呼び寄せられるけど?」

 髪をかき上げながら喋るオーナーの姿に、ケリーがうっとりとした視線を送っていた。


「いや、夜明けまでにカタをつける」

 かたや梟は、首を横に振り、オーナーの案を断る。

 

「正気で言ってるの?」

 ケリーは声を裏返らせる。

 思いがけず高音になったせいか、梟は険しい表情で舌打ちした。

「正気だとも」

 胸ポケットから二つ目のチョコレートを出して、また戻す。

 なぜかまた、ポケットを探って、次に手にしたチョコレートの包装を剥がし始める。

 

「俺からすると、ヴァンサンに金で釣られた連中に、信頼もクソもないんだが」

 チョコレートの包装を握り締めながら、梟は言う。

「お前たちが頼るべきは信頼だ」

「とは?」

 オーナーは、苛立ちの混じった鋭い視線を梟に向ける。


 梟は体ごと後ろを振り向き、怪訝な顔でオーナーと梟を見ていたケリーに尋ねる。

「お前は、この島を何年見守ってきた?」

 

 梟からの突然の問いに、ケリーは斜め上を見上げて、記憶を振り返りながら答える。

「オーナーに任されたのは……8年前。それ以前から、手伝ってきたけど」

「つまりそれだけの年数、この島の住民は、お前に協力してくれた」

 梟が何を言いたいのか、ケリーはまだ把握できない。

 

「お前だって、それだけの年数、島民に手を貸してやっていたんだ。お前が率先して島民を引っ張れば、思ってる以上は動く」

 島の権利がヴァンサン・ブラックに奪われてから、まだ一日も経っていない。

 寝返った手下もいれば、まだ寝返っていない手下もいる。

 島がオーナーのものではなくなった、と知らない島民だっている。

 

「島民の信頼に応えてやれるのは、お前らだけだ」

 島を取り戻したいと思っているのは、オーナーだけではない。

 

 ケリーは瞬きを何回も繰り返し、今言われた言葉を脳内で繰り返す。

 

 二十年前、島を買ったオーナー。

 そのオーナーに島の管理を託されたケリーを信頼して、この島の住民は、今までついてきてくれたのだから。

 

 まだ、諦めなくていい。

 ケリーの故郷は、この島だ。

 島民の故郷も、この島なのだ。

 

 オーナーと二人で逃げ出さずに、まだここにいるのは、なぜか。


「あんた、たまにはいいこと言うじゃない」

 ケリーはニヤッと笑ってみせた。

 

「こいつ、ちょっと黙らせろ」

 明らかにムッとした表情になった梟は、今度はオーナーの方へ振り返った。

 その勢いで、ケリーを指差して注文をつける。

 

「口は悪いけど、かわいい子でしょ?」

 だがオーナーには、まったく響いていない。


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