2.

 

          *

 

 

 もしかしたら、これが最後かもしれない。

 それでもいい、幸せの絶頂で死ねるのなら、それ以上の幸いはない。


 ケリーはそう思いながら、愛しい恋人の首へ巻き付けた腕に、力を込める。

 恋人は一瞬でも離れるのが惜しいと思っているのか、ぴったりと肌を寄せ、長いキスを何度も繰り返す。お互いの背中に立てた爪の痕は、二人がたしかにここにいた証だ。

 この瞬間のすべてを記憶に残す方法は、なぜないのだろう、とはがゆい感情がケリーの胸に沸く。

 恋人の憂いの深い、黒い眼を覗き込む。その眼に映るケリーは、必死で恋人の記憶に焼け付こうとしている。


「愛してる」

 ケリーは熱っぽい眼で、恋人の胸元まで伸びた髪をかき上げてやり、頬を両手で包む。

「一生愛してる」

 口づけの間にも、そう言った。


 夢のような瞬間の後、現実は容赦なく、やってくる。

 ベッドの上、裸のまま恋人と微睡んでいたケリーを起こしたのは、邸宅のインターフォンだった。心拍数が跳ね上がる。

 恋人は眠っているのか、起き上がる気力もないのか、動こうとしない。

 ケリーは急いで、ベッドの周りに落としていった下着や服を拾い上げ、着替える。着替えの途中で、ケリーは冷めた笑みを浮かべた。


 

 ここでちゃんと服を着ていようといまいと、どうせ死んだら意味はない。


 

 下着とTシャツだけ身に着けた状態で、ケリーはインターフォンのカメラを確認する。


「え?」

 来訪者の姿を見たケリーは、拍子抜けした声を漏らす。

 

 

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