5.


          *

 




 硝子の塔、最上階のスイートルーム。

 どの建物より高い位置にある、このタワーのガラス張りの部屋からは、島の全景を360°で楽しめる。


 

「あの演技、下手くそだったなぁ」

 質のいいソファに寝そべったヴァンサンは、思い出し笑いをする。

 渕之辺 みちるは島の管理を担うケリーのもとへ向かっていて、一足先にヴァンサンとジェレミーは硝子の塔へ戻っていたところだった。

 

「俺には演技だと思えなかったけど」

 向かい側のソファで、スマートフォンのゲームに興じているジェレミーは、ちらりとヴァンサンに眼を遣る。

 

「いーや、あれは演技。嘘つきばっかとやり合ってきた僕にはわかる」

「あぁ、そう」

 勢いよくソファから起き上がって、やけに真剣な表情でヴァンサンはジェレミーの言葉を否定する。

 一方でジェレミーは、スマートフォンに夢中で適当な返事しかしない。

 

「あの女」

 ジェレミーの態度にムッとしたヴァンサンは、膝の上で頬杖をついて唇を尖らせた。

 

「僕じゃなくて、ジェレミーと握手しようとしたね」

「あぁ、そういえば」

 ジェレミーは相槌を打った直後、小さく歓声を上げる。さっきから何度も負けていたゲームのクエストをクリアした、らしい。

 

 自分の話をまともに聞いていない従弟に、ヴァンサンは舌打ちが出てしまう。

 舌打ちが聞こえてきたことで、ジェレミーはやっと、視線をヴァンサンにしっかり向けた。

 

「ちゃんと、サヴァンセの動きは押さえられた?」

「真っ先にやった」

 ヴァンサンが尋ねると、ジェレミーは頷く。

 

「さすがジェレミー、頼れる従弟だ!」

 満足そうに笑うヴァンサンがハイタッチを求めて、右手を挙げる。

 ジェレミーは軽く口元を緩め、左手でハイタッチを返した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る