第66話 忠告
「とりあえず、鳴彦さんはもっとミヨさんを大事にして下さい。あんまり浮気ばかりしていると、本当に愛想を尽かされますよ?」
「はいはい、
この男、本当に分かっているのだろうか?
こんなに自分のことを想ってくれる人と出逢えた奇跡を、まるで分かっていないなとイライラが込み上がっていた。
ミヨさんには申し訳ないが、こんな男はとっとと愛想を尽かして見捨てるべきだと思ったほどだ。
「——あ、やっぱちょっと待ってくれ。おい、オッサン。ちょっと一言言わせてくれ」
「アン? お前、目上の人を呼ぶ時は、もう少し敬って呼べ」
苛立ちを浮かべながら踵を返すと、意外にも真面目な顔で訴えてきたので、思わず圧倒されて息を飲んだ。
「認めたくはねぇが、杏樹はアンタのことを本気で好きみたいだから、仕方なく諦めてやる。けど、アイツの回りにいるは俺のような奴ばかりだと思うなよ?」
「……どういう意味だよ?」
だが、俺の問いに答えることなく、鳴彦達はその場を去っていってしまった。
残された俺達はどうしようもない憤りを消化できないまま、複雑な心境で立ち尽くしていた。
「あの、一体何を話していたんですか?」
「いや……大した話じゃないんだけど」
不安そうな杏樹さんを見て、そばで守れない歯痒さを噛み締めていた。
隙だらけで、すぐに人に流されてしまう幸薄美少女、杏樹さん。俺は彼女を守ることができるだろうか?
自分に出来ることなら何だってするけれど、もし知らないところで何かあった時、どうすればいいのだろう?
とはいえ、いくら考えたところでどうしようもないと諦めた俺は、モヤモヤしたまま家へと帰ることにした。
杏樹side ……★
鳴彦さんとヒソヒソ話をした後から、何だか絋さんの様子がおかしかった。
もしかしたら何か言われたのではと心配して、それとなくミヨさんに聞いてみたが、特別なことは何も言っていっていないと言われてしまった。
「とは言っても、気になるんだよね……」
相談してみたいと千華さんの部屋を訪ねてみたけれど、具合が悪いみたいで一日中寝たきり状態だったそうだ。
「せっかく絋さんと距離が縮まったと思ったのに、不安なことばかりだな」
恋人としての距離が縮まれば不安も埋まると思っていたけど、それは私の勘違いだった。
近付けば近付くほど、どんどん欲が出て来てしまう。独占欲も湧いてしまうし、自分以外の女性が近付くことも快く思えない。
私のことだけを思って、私のことだけを考えていた欲しい。
千華さんと崇さんのようになる為には、やっぱり結婚して子供ができないと無理なのだろうか? でも頑なな絋さんの考え方を変えるのは、一筋縄ではいかないだろう。
珍しく一人でベッドに入って寛いでいた。毎晩のように添い寝をしていたら我慢ができないと言われたので、添い寝の回数を減らしたのだ。今は前のように情緒も不安定ではないし、絋さんの言い分も分かるので言うことを聞いているのだけれども……。
「んー、そんな考えている暇があったら、次のデートのことを考えないと! 定番のデートをしようって言われていたけど、何がいいかな?」
映画を見に行くか、もしくは動物園、水族館に行こうと言われていたけれど、もし動物園に行くなら弁当を作った方がいいだろうか?
映画も見たいものを選んでいて欲しいと言われていたし、意外とデートの内容を考えるのも大変なんだと痛感した。
個人的には今日みたいにインテリアの話をするか、二人で遠出をして泊まりがけのデートをしたい。この前の展示会の時みたいに、回りを気にせずにデートをしたい。
「素直にもっとイチャイチャしたいって伝えればいいのに、何で言えないんだろう」
私もミヨさんや莉子さんみたいに自由奔放に甘えたい。もっともっと、絋さんと楽しく過ごしたいのに……。
目を瞑って大きな溜息を吐いた時だった。
珍しく莉子さんから連絡が入ってきたので、つい反射的にメッセージを開いてしまった。
『ねぇ、アンタ大変なことになっているじゃん! これって学校から何か言われるんじゃない?』
何だろうと添付された写真を開いてみると、そこには絋さんと一緒に歩いている姿が撮られていた。カラオケに入る前と、出た後——……。
ゾワっとした。
正直、これだけなら大した問題にはならないだろうけど、問題はその間の行為だ。
きっと、いや……おそらく撮られているに違いない。
『ねぇ、未成年と付き合うのって犯罪になるんじゃないの? もし学校側にバレたらアンタの彼氏だけじゃなくて、及川さんも何か罰をうけるんじゃない?』
「分からない……そもそも、この写真ってどこで見つけたの?」
『クラスのグループトークに上がってきたの。多分、色んな生徒に拡散されてるんじゃない?』
それなら学校側にバレるのも時間の問題だろう。
だけど、互いの同意があれば大丈夫なはずだ。私も絋さんもいずれ結婚しようと約束し合った間柄だから心配はないと思うのだが……。
これは、私だけでどうにか出来る問題じゃない。スマホを強く握り締めて、私は絋さんの元へと急いだ。
———……★
「やましいことはない、だけど……。もしものことがあったら……」
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