第56話 ライバルだけど好き

 杏樹side……


 学校から帰ろうとした時、絋さんからスマホに連絡が入っていることに気付いた。

 千華さんと一緒に買い物に出かけるから留守にするとのことだった。


 莉子さんやシユウさんなら心配になるけど、千華さんだけは不安にならないのが不思議だ。あんなに美人で隙のある人なのに。


「崇さんのことが好きっていうのが一目瞭然だもんね。私達も千華さん達みたいな恋人になりたいな」


 誰もいない家に入って、洗面へと向かっていた時だった。ドアを開けた瞬間、お風呂上がりでラフな格好をしたシユウと遭遇してしまった。


「わっ、杏樹ちゃん! おかえりー」

「た、ただいまですけど……、その格好!」


 大きめのタンクトップにショートパンツ。横からチラチラと大事な部分が見え隠れする。

 こんな格好でリビングをウロチョロされたら目のやり場に困ってしまう。


「ここは男性もいる共同スペースなんです! 家にいる感覚で過ごされると困るんですけど!」

「え、そう? ボクのチッパイ見ても誰も喜ばないと思うけどなー」

「そういう問題じゃないんです!」


 こんな状態じゃ油断ならない! 確かに推定Aカップのシユウの胸囲は、まるで中高生並の大きさだけれども、好きな人は好きだと思うから。

 絋さんも好きじゃないとは言い切れない——!


「っていうよりもさー、ボクよりも杏樹ちゃんの方がずっと魅力的じゃん? 改めて見ると美人さんだよねー。ボク、美人な女の子も好きなんだよね。ねぇ、今度KOWさんとイチャイチャしてるところを見せてよ! インスピレーションが降りてきそう!」

「い、イヤですよ! 何で私と絋さんのやり取りを見せないといけないんですか!」


 紘さんに見せるだけでも恥ずかしいのに、それを他の人に見せるなんてあり得ない。

 ううん、自分だけじゃない。行為の最中の紘さんだって誰にも見せたくない。あんな艶やかで色っぽく汗を拭う彼を見せたりしたら、それこそ恋の泥濘ぬかるみにハマって出れなくなるに違いない。


 あの時の彼を思い出しただけで顔が熱って、口元が緩んでしまう。お腹の辺りがキューっとなって体温が上昇する。


「あぁー、杏樹ちゃん。今、思い出したでしょ? すごーくエッチな顔してるよ? ふふふー、ねぇ、今度のボクのMVに出演しない? ボク、杏樹ちゃんをモデルにしたらスゴくいい作品ができそうな気がするんだよね」

「わ、私を?」


 無理だ、そんなことできない。

 でも……素直にいうとシユウさんの歌は好きだった。最初は絋さんの作品を見る為に見ていた動画だったが、気付けば彼女の魅力にも取り憑かれていた。

 それに紘さんの動画もそうだ。この前のメイド服の編集した動画を見せてもらったのだが、全然いやらしくなくて可愛くてポップな仕上がりで驚いた。

 絋さんというフィルターを通しただけで、こんなに変わるのならって期待してしまうのも事実だった。


「ねぇ、撮らせてよー! ねぇねぇ♡」


 まるで子供のようにはしゃぐシユウさんが、両手一杯に手を広げて飛びかかってきた。


「わぁー、杏樹ちゃんってもしかして、結構オッパイ大きい? 細いのにこんなに柔らかいとか反則じゃない?」


 胸元に顔を埋めてブラウスの上からフルフルと顔を振ってきた。


「お、大きくないから! 離れてください!」

「このオッパイにKOWさんが夢中になっていると思ったら、ボクも見たくなってきた。ねぇ、一緒にお風呂に入り直さない? 背中流してあげるよ?」

「遠慮します……! 何だかシユウさん、おじさんみたいな発言になってますよ⁉︎」

「そんな殺生なー。こんな可愛いおじさんがいたら、皆に可愛がられるって♡ ………って、ここはツッコむところだからね、杏樹ちゃん」


 ツッコミたいのは山々なのだけれども、シユウさんの指が着実に衣服を脱がし始めているので抵抗するのに必死だった。

 こ、この人……絋さんが好きなんじゃないの?


「え、ボク? うーん、確かにKOWさんのは大好きだし、仕事に対するベクトルとかも大好き! でもそれと同じくらい杏樹さんにもポテンシャルを感じるかなー?」

「さ、才能?」

「才能も人間的にも好きって思えたのってKOWさんが初めてだからよく分からないんだけど、KOWさん単品よりも杏樹さんといる時の方が魅力的だって、最近気づいたんだよねー。ねぇ、二人まとめてボクが飼ってあげるから、ボクのために満足するまでイチャイチャしてくれないかな?」


 この人、怖い! でも気づいた時には床に押し倒されて、そのまま馬乗りにされてしまった。小柄な体からは想像できない力強さのせいで、全くビクとも動かない。


「それじゃ、ちょーっとだけご拝見♡」


 露わになった下着の紐に指をかけられ、そのまま脱がされた瞬間、帰宅した絋さん達が部屋に入ってきた。


 このタイミング⁉︎

 助かったけれど、まさかこんなポロンと露出した状態で??


「ただいまー、杏樹さん戻ってるん? 何かドタバタ聞こえたけど大丈ぶ——………」

「こ、絋さん……た、助けて」

「あ、KOWさんだー、おかえりー」


 シユウに襲われた屈辱的な絵面を大好きな紘さんに見られ、私はキャパオーバーになってしまった。

 当然、紘さんもどうするのが正解なのか分からないまま、口を開けたまま固まっていた。


「きゃー、杏樹ちゃんもシユウさんもエッチだねー。二人で百合百合? それとも絋さんも交えてヤッちゃうの?」

「や、ヤリませんから‼︎」


 ——とは言いつつも、ラブコメらしいエッチなハプニングに、その日の絋さんはとても元気いっぱいでした……♡


 ———……★


「絋さん、シユウさんの胸も見ました?(ジト目)」

「み、見てない! 俺は杏樹さんしか見てないから!」

「(それはそれでエッチだから怒る案件だけど……)」


 これぞベタなラブコメ展開って思うのは私だけでしょうか?

 日常回ってやっぱり面白いです(笑)

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