第55話 そんな人だなんて知らなかった!

 杏樹side……


 シユウのシェアハウスが決まってから数日後……私は初めてのライバルに気が気じゃなかった。

 ううん、絋さんはイケメンだから色んな女性に狙われているのも分かっていたのだけど、ここまで明確にアプローチしてくる人はいなかったし、何よりも絋さん自身が誠実だから安心していたんだけど、シユウは一味違う気がする。気が抜けない。


「おい、杏樹。お前は一体いつまで家出してる気なんだ? まだ俺んところに戻ってこないのか?」


 いつものように教室でお弁当を食べようとしていた時、諦めの悪い男、鳴彦さんが現れた。


「……何で下着を盗んだり、盗撮するような人がいるところに帰らないといけないんですか? 私はもう二度と前薗家に帰る気はないです」

「けど、お前の親が亡くなっている今、俺達がお前の家族なんだから、戻ってくるのが筋だろう?」

「私は絋さんと婚約したので、大学を卒業したら結婚する予定です。そもそも鳴彦さんのご両親とは話もついているので問題ないと思いますけど」


 絋さんの紹介で弁護士に依頼して遺産分与も全て終わらせて、お世話になっていた時の謝礼も支払い済みだ。なので前薗家と私の縁は切れたようなものだった。


「私にかまっている時間があったら、ミヨさんとデートしてあげた方がいいですよ? あんな可愛い子、鳴彦さんには勿体無いくらいだし」

「あのな……、前にも言ったけど、俺が好きなのは杏樹、お前なんだよ。お前じゃないと意味がないんだ。何で分かんねぇのかなー?」


 他の女性とイチャイチャしている男の言い分なんて、理解もしたくないんですが?

 何でミヨさんはこんな男が好きなのか、一生かけても理解できない気がする。

 そもそも人の好みは人それぞれだから、私が口を出すことでもないんだけれども。


「大体、杏樹の彼氏って無職の元社畜なんだろう? 莉子に話は聞いたぞ」


 ——莉子さん、いい加減データをアップデートしてくれないかな? もう絋さんは無職じゃない。


「そんな奴に杏樹は任せきれない! よって俺に会わせろ!」

「絶対に嫌。絋さんが穢れてしまうから」

「何だよ、人をバイキンのように言いやがって」

「……性病検査はしてるの? ミヨさんに移したら可哀想だから、一度泌尿器科を受診した方がいいよ?」

「おい、ふざけるな! 俺の名刀はビンビンだっつーの! 何ならお前で試してやろうか⁉︎」


 私は絋さん一筋なので丁重にお断りをしたい。そんなことより昼食の時間が過ぎてしまうから、早く帰って欲しいのだけれども。


「もう、鳴彦ー。アンタまた及川さんに絡んでるのー? いい加減脈なしだってことに気付きなさいって」

「そうです、ナル先輩みたいな乱暴モノは、私にしか扱えないんですから、諦めるです」


 ミヨさんの視線が心なしか下半身に向いている気がするけど、あえて気づかないふりをした。


「本当、ミヨも物好きよねー。こんな浮気男のどこがいいの? 遊び相手には丁度いいけど、毎日ってなるとウザくない? 鳴彦のエッチってしつこいから」

「だから、ナル先輩のことを知り尽くしたような言い方はやめてくれませんか? それにそれがいいんじゃないですか♡ ナル先輩の執拗で容赦のないセックス……ハァ♡ 思い出しただけで下半身がクチュクチュに乱れちゃいます♡」

「はい、アウトー! もうアンタと鳴彦、二人で空き教室に行っちゃえばー? 健全な学園で淫乱な話をしないでくれますー?」


 またうるさい人達が増えた。

 私はもっと静かに学園生活を送りたいのに、どうしてほっといてくれないのだろう?


「そういえば、及川先輩達、お泊まりデートしたんですよね? うまくいきました?」


 やっとまともな会話が出来る。

 私はミヨさんの言葉にニンマリと笑みを浮かべた。


「おかげさまで、すごくいい夜が過ごせました♡」


 口元を両手で隠して、成功したことを報告した。二人も「キャー!」っと女子高生みたいにはしゃいで、どうだったと質問攻めを始めてきた。


「私も初めてだったから、思ったよりうまくできなかったんだけど、絋さんがとても優しくて。すごく大事にしてくれてるのが分かって、嬉しかったです♡」

「いいなぁー、いいなぁー♡ 莉子も年上の彼氏欲しいー! あ、でも無職は嫌だなー。やっぱお金ある人がいいわー」

「えー、でも優しいだけよりも、多少は強引な方が良くないですか? ナル先輩のようなオラオラも癖になりますよ?」


 恋愛観は人それぞれだから口は出さないけど。


「でも、その割には浮かない顔をしてませんか? もっと幸せオーラが全開だと思っていたのに」


 なかなか鋭い発言を皮切りに、私は二人に相談してみた。実はシユウっていうライバルが登場したと。


「え、シユウって。あのシユウ? え、意味分からないんだけど? 何で無職の社畜がシユウに迫られているの?」

「前に一緒に仕事をしたことがあるみたいで。絋さん、趣味で公開していた動画で成功したんです」

「はぁ? 何それ、ちょっと聞いてないんだけど! え、それじゃ及川さんの彼氏って、有名人なの⁉︎」


 有名人ではないけど、一応クリエイターにはなるのかな?

 数名の歌い手の動画や企業の依頼なども受けているとも説明をしてもらった。もちろん仕事だけの関係だから、シユウみたいな事案が特殊だとも教え込まれた。


「ズルい、ズルい! あんなイケメンで優しくて有名人だなんて! やっぱ莉子も好きになる! 及川さんから彼氏を奪ってあげる!」

「奪わなくていいって。もうシユウさんだけでも手いっぱいだから、莉子さんと遊んでる暇なんてないです」

「ズルいズルい! 私もハイスペックイケメン彼氏が欲しいィー!」


 ないモノねだりの駄々っ子莉子を他所目に、ミヨさんは「頑張ってください!」と激励を送ってくれた。


「及川先輩なら大丈夫です! 彼氏さんも先輩のことを大事にしてるって伝わってくるし。絶対に負けたらダメですよ」

「ミヨさん……! ありがとう」

「だって及川先輩がフリーになったら、ナル先輩がどんな暴走をするか分からないもん。絶対に及川先輩をフリーにさせるわけにはいかない。私の目が黒いうちは、絶対に……(ぶつぶつぶつ)」


 あ、これ、自分のために応援してるクチだ。


 何で私の回りって、こんな自己中な人しかいないんだろう? もう少しまともな人が一人くらいいてくれたらいいのに。


 すると遠くで私達の様子を見ていた水嶋くんと目があった。少し興奮しているのか、頬を赤らめて慌てていた。


「あ、え、その……! 及川って彼氏と上手くいってるんだって?」

「うん、おかげさまで。仲良くしてるよ」

「そうなんだ。お、俺、応援してるよ! お幸せに!」


 素直に応援してしてくれる水嶋くんに感謝をしていた私だが、彼が私と絋さんの仲良くしているシーンを想像して、興奮していたなんて全く気付いていなかった。


「私の高校生活で水嶋くんだけが、唯一のまともな知り合いかもな……」


 そんな彼がとんだ変態だと気付くのは、ずっと先のことだった。


 ———……★


中村「類は友を呼ぶとも言うので、結局杏樹も変人だと私は思う」

杏樹「作者さん……こんな話を書くあなたが一番の変人だからね?」


 最新話までお読み頂き、ありがとうございます!

 次回の更新は10月26日(土)です。よろしくお願いいたします✨

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