第51話 やっと会えましたね!

 絋side……


 なんでこんなところにシユウがいるんだ?

 これが偶然ならば、運が悪いとしか言いようがなかった。


 突然のライブに来場者は勿論、近くにいた歩行者も巻き込んで、一帯が騒然とした。

 想定以上の反響に、先に来場したい人を誘導してくれたスタッフのおかげで、俺達は予定よりも早く入場することができたのだが——……。


 どうしよう、杏樹さんの機嫌が直らないのだが?


 ぷくぅーっと頬を膨らませて、コレ、手に負えない奴だと観念した。


「……シユウ、絶対に紘さんに気付いていました。目が合ったでしょ? ねぇ?」

「あ、合うわけないじゃん! あの大勢の観客の中から見つける確率ってゼロに近いし、そもそも俺がいること自体知らないはずだし!」

「シユウは紘さんの顔が好きなんですよ。仮に紘さんだって認識していなくても、好みの顔があったら見ちゃうものなんじゃないですか? 私の紘さんなのに……顔だけで選ぶなんて(ぶつぶつぶつ……)」


 恐いって、杏樹さん!


 そもそも向こうがどう思っていようが、俺が好きなのは杏樹さんだ。シユウのことを目の敵にしたところで意味なんてないのに。


 二歩くらい前を歩く杏樹さんに付いて行くように、俺は頭を掻きながら歩いていた。


「あの、すいませーん。お兄さん、ちょっとお願いがあるんですけどいいですかァ?」


 ふと後ろを向くと、同じ年くらいの女性が二人、撮影許可が出ているパネルの前でデジカメを持って立っていた。


「写真撮って欲しいんですけど、お願いできますか?」

「写真……別にいいですけど」

「やった♡ やっぱり聞いてみて正解だったじゃん」

「何枚か色んなポーズでお願いしていいですか? よろしくお願いしまーす♡」


 思ったよりも時間がかかりそうなお願いに苦笑を浮かべながらも、渋々とカメラを構えた。数回シャッターを押した頃、女性達は谷間を作って距離を縮めてきた。


「お兄さん、撮るのすごく上手ーい! え、あのお礼ってわけじゃないんですが、よかったら私たちと一緒に見て回りませんか? あとでご飯奢りますから」


 写真が目的なのか、ナンパが目的なのかは定かではないが、俺は丁重にお断りをして杏樹さんを追いかけることにした。


「申し訳ないですが、彼女を待たせているので遠慮します」


 ヒステリな甲高い声と舌打ちの声を背後に聞きながら、キョロキョロと回りを見渡した。あんな安いナンパがきっかけで険悪になるなんて困るのだが?


 すると少し離れた場所から様子を伺っていた杏樹さんが、唇を尖らせながら姿を見せてくれた。


「——彼女、待たせて何をしてるんですか?」

「杏樹さん……、いやアレは俺も不本意で」

「絋さんは顔がいいんです! 見た目が全てじゃないですけど、それでも! 自分がモテるってことを自覚してて下さい」


 いや、それは俺のセリフだ。

 さっきから回りの男達がチラチラと杏樹さんを見ていることに気付いているのだろうか?


「聞いてるんですか?」

「あ、あぁ。分かったよ。これからは杏樹さんが不安になるようなことはしないから。それでいいん?」


 彼女はニッと満足気に笑みを浮かべた。


「絶対ですよ? 他の人に浮気をしたら私……絶対に許しませんからね?」


 分かりました——そう口にしようとした瞬間、いきなり背中に突撃してきたような衝撃が襲いかかってきた。


 何だ、今度は⁉︎


「いたいた、いた! KOWさんですよね? 本物ですか?」


 小柄な身体が、腰の辺りにしがみついて離れない。一体誰だ? 変態か?

 身動き取れずに固まっていると、目の前の杏樹さんが絶望の表情で立ち尽くしていた。


「え、何で……? でもこの声」

「えぇー、気付いちゃうんですか? KOWさんのお連れの方ってスゴいですね! ボクの変装を見破るだなんて」


 ステージで歌って踊っていたのは金髪の美少女だったけれど、今のこの子は黒髪だ。だが、この声は彼女しか思い当たらない。


「やっと会えましたね、KOWさん! 素顔と素顔は初めまして、シユウです!」


 嘘だろう、こんな人前で抱きついてくるとか、アリなのか?


 このあり得ない状況に、俺も杏樹さんも身動き取れないまま固まっていた。


 ———……★


「あれ、あれれれれれー? 何で反応がないのかな?」



 すいません、ちょっと忙しくて少ししか書けませんでした💦

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