第49話 嬉し、恥ずかし…… 【♡♡有】

 杏樹side……


「んん……っ、眩しい」


 いつもより太陽の日を感じると目蓋を擦りながら目を覚ますと、見慣れない光景が広がっていた。

 重くのし掛かる紘さんの腕が私を抱き締めるように絡んでいて、やっと昨日の出来事を思い出した。


「そうだ、私……紘さんと」


 彼の息遣い、熱い吐息。快感に歪んだ顔に、果てる声。全部、全部、身体に刻まれている。

 お腹の奥に残る鈍痛のような違和感。

 私は……紘さんとシたんだ。


 前もって準備をしていたものの、実際は上手くいかなくて大変だったことも、恥ずかしい体勢で全身を愛撫されたことも、全部覚えている。


 今だって全裸で毛布を被っているだけだから、特有の体温がダイレクトに伝わってくる。


 ……というより、ドキドキする。ううん、ムラムラ悶々する。


「紘さん、好き……大好き」


 寝息を立てる彼に、そっと顔を近づけてチュッとキスをした。まだ気付かない、起きる気配もない。


 腕を持ち上げて体勢を変えて、さっきよりも強く唇を当ててみた。ペロっと舌で舐めてみたり、ギュッと抱きしめてみたり。だけどやっぱり眠り続けたままだった。


「起きない……どうしよう」


 諦めて仰向けのまま天井を眺めていると、徐に彼の手が動いて片乳を鷲掴みされてしまった。


(んんん……っ⁉︎)


 もしかして起きたの? それとも寝惚けているの?

 すると彼の顔が谷間に埋めてきて、グリグリと押し付けてきた。まるで駄々をこねる子供のようで可愛い。けれど子供はこんなエッチな触り方をしない。


「絋さ……っ、ダメ、こんな明るいところで」


 必死に突き放そうとするが、全く歯が立たない。逆に下半身まで押し付けられて、朝勃ちで大きくなった彼のモノが太ももに挟まれていた。


 どうしよう、避妊具コンドームもつけていないのに、このままじゃ妊娠しちゃう……!


「はぁ、はぁ……ん♡ 絋さん、ダメ♡」


 完全に受け入れ体勢をとった瞬間、我に返った紘さんが顔を真っ赤にして目を覚ました。


「——え? 俺……」

「あ……、絋さん、おはようございます♡」


 状況が把握できない彼は、急いで距離を取って服を着て始めていた。

 せっかく後もう少しで既成事実ができたかもしれないのに、残念だ。


「え、俺、ヤッちまった? もしかして生で」


 それは未遂に終わったのだけれども、せっかくなら軽くイタズラをしちゃおう。私は口元を隠して、恥ずかしがるように小さく頷いた。


「気持ちよかったです、とっても♡」


 一方、罪悪感から顔を真っ青にした絋さんは、何度も何度も土下座をして謝罪の言葉を口にしていた。


「責任取るから! 俺が一生杏樹さんを大事にするから」

「あ、あの! そんなに気負いしないで下さい。嘘です、冗談ですから!」

「いや、あの感じは未遂じゃない! 寝惚けていたとはいえ、俺はなんてことを」

「だ、大丈夫です! そもそもこの行為は同意の上のことなので、絋さん一人で責任取る必要はないです。もし出来ていた時は……一緒に育てましょう?」


 誤魔化すように口にした言い訳だったが、彼は目からウロコだったようで、憑き物がとれたような表情で「——はい」と頷いていた。


 というよりも、昨晩も何回もしたし、避妊具だって100%ではないのだ。

 私達はそのリスクを踏まえた上で行為に及んだのだ。


 これは実質、将来を約束したも同然だろう。


「紘さん、不束者ですが、どうぞ末長くよろしくお願いいたします」

「え、あ、うん。こちらこそよろしくお願いします」


 こうして私達は支度を始めて、朝のバイキングを食べに部屋を後にした。


 ———……★


 三階のレストランへ向かうと、大勢の人で賑わっていた。家族連れや友人、恋人同士で来ている人もいれば、団体観光で宿泊している人も。


 そんな中、はぐれないようにと紘さんが繋いでくれた手が心強くて、思わず顔が綻んでしまった。


「席はここにしようか? 杏樹さんは何を食べる? 和食? 洋食?」

「見て決めようかな……。パンがとても美味しそうなんですよね。クロワッサンが好きなんで」

「あー、そういえばよく食べてるよね。俺も一緒にしようかな。サーモンのマリネとグラタンも食べたいな。やっぱホテルのビュッフェってテンション上がるな」


 すごく幸せ……♡

 今までも紘さんの優しさに救われていたけれど、今日はそれだけじゃなくて。


【私達、恋人同士なんです】って堂々と胸を張れる感じが嬉しい。

 まわりの人に「この人、私の彼氏でとっても素敵なんです」って大声で自慢したいくらい好き。


「ん、ケーキもある。けどこんな食えないだろうな……杏樹さん、どうする?」

「はい、私は好きです」

「ん?」

「え?」


 何の話? 紘さんのことじゃないの?


「なに? まだ寝惚けているん? いくら眠れなかったからって、油断しすぎ。今日はまた展示を見に行くんだから、しっかり食って行こうよ」


 クシャッと笑った顔が幼くて好き!

 あああー、年上の紘さんは頼りになって素敵なんだけど、同級生くらいの紘さんにも会いたかった!


 ううん、むしろ赤ちゃん時代から全て見守って愛でていきたい。


 ——ううん、もしかして私達に子供が出来たら、紘さんそっくりの子供が生まれるんじゃ?

 大人の絋さんと赤ちゃんの絋さんといれて、幸せ二倍?


 やっぱり今日、避妊なしで行えばよかった。ううん、これからは隔たりなしで行ってもらおう、そうしよう。


「あの、紘さん……! その今晩からは」

「ん、どうしたん?」


 下心なしの爽やかな紘さんの顔を見ていると、エッチなことばかり考えている自分が恥ずかしくなった。


「な、何でもないです……。パンもケーキも美味しそうですね」

「せっかくだからたくさん食べよう。昨日、スゲェ動いたから腹減ったんだよね」


(んんんー……っ! だめ、紘さん! 自重しようと一生懸命なのに、そんな思い出すようなことを言わないで!)


 こうして私は、よこしまな下心と闘いながら必死に平常心を保とうと健闘していたのだ。


 ———……★


「こ、紘さんって実はとっても意地悪ですよね……(真っ赤)もしかしてワザとですか?」

「え、何が? 待って、意味が分からないんだけど⁉︎」


 ——どうしよう、本番よりも未遂のこっちの方がエロいのは何故?(笑)

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