第46話 突然のメイドさん(悶絶)【趣味♡有】

 俺が予約したお店は、幾多のランプが吊るされたシックな大人の雰囲気が漂う夜カフェのお店だった。


 だが、お店に着く前に別件の仕事を思い出してしまった。元々一人で展示会を見る予定だったので、請けていた仕事があったのだ。


「しまった……杏樹さん、少しだけ仕事の下見に行っていい?」

「いいですよ? ちなみに何をするんですか?」

「専門学校と提携しているカフェからサイト作成の依頼が来たんだ。きちんとした撮影は後日するけど、せっかくだから挨拶でもと思ってね」


 こうして俺達は食事の前に別のカフェに立ち寄ることにした。


 そのカフェは淡いピンクとミントのストライプの壁紙、木製のテーブルの中央にアフタヌーンティーが装いされた女子が好みそうな内装だった。

 しかも店員の格好も不思議の国アリスをモチーフにした水色と白と黒を基調にした可愛いメイド服になっている。


「可愛い……。こんなお店、初めてきました」

「そうなん? 逆にこういうお店しか行かないと思ってた」

「い、行きませんよ! だって高そうだし……基本ファーストフードばかりです! もしくはファミレスとか」


 てっきりオシャレ女子高生はパンケーキを主食にしていると思っていたのに。なんて言ったら怒られそうなので、俺は胸の内に秘めておくことにした。


 それにしても可愛い。今までコスプレに興味はなかったのだが、メイド姿の杏樹さんを想像したら妄想が止まらなくなった。


 ぜひ見てみたい。いや、見たい。


「なぁ、杏樹さん。ちょっと言いにくいことなんだけど、少しだけモデルをやってくれないかな?」

「え? えぇ? そ、そんなことできるわけがないじゃないですか! 大体お店の制服なんて、お客が着れるわけが」

「着たいんですか? いいですよー。ウチの制服は可愛いって有名なので、クリーニング代さえ頂ければ試着がOKなんです」


 突然会話に入ってきた店員さんに驚きつつ、俺は即座に提案を受け入れた。ついでに仕事の依頼をしてきた店長にも挨拶をして、俺達は奥の部屋に案内してもらった。


「今回、お店のサイトを作って下さるKOW様ですよね? よろしくお願いします♡」

「こちらこそよろしくお願いします。いや、それにしてもすごいですね。店内の内装もだけど、制服も細部まで拘って」

「ありがとうございます! このカフェは装飾系の専門学生が自分達の作品展示も兼ねて営業しているカフェなんです。だから試着やオーダーメイド発注なども受け付けています♡ ちなみにサイズはこちらでよろしいですか?」

「い、いや! 私はまだ着るとは言ってないんですけど!」

「はい、大丈夫です。杏樹さん、俺の仕事のためだと思って……お願いします!」


 着てもらえたらラッキーくらいの感覚だったのだが、渋々了承してもらい、俺は思わずガッツポーズを取った。


 絶対に可愛い……! 

 俺、この動画を一生の宝にする。


「それじゃ、着替えて参りますのでお待ちくださいませ♡」


 こうして俺は、ツインテールの店員さんに連れていかれた杏樹さんの着替えを待つこととなった。


 ———……★


「しかし……スゴいな。本当に異空間に迷い込んだみたいだ」


 どこを見ても可愛いが溢れたファンタジーな世界観。メニュー表やカトラリーまで拘っていて、本当にコンセプトが細かい。

 俺達以外のお客もテンション高めになって写真を連写して撮っている。


「お待たせしました、ご主人様♡ 彼女、とっても可愛くなりましたよ」


 ツインテールの店員さんの紹介で振り返ると、そこには最高潮に可愛い、極上メイドさんが恥ずかしそうに立っていた。


「あ、あ、あの……! とってもスカートが短くて恥ずかしいんですけど」


 クラシカルな雰囲気も残しつつ、スカートのシルエットもふんわりと広がっていて、美しいシルエットを残していた。

 胸元にもたくさんのリボンがあしらわれていて、ロリーターらしい甘い雰囲気も醸し出されている。


 いや、それよりもスカートの下に履いているパニエとフリルのついたニーハイの絶対領域がエロい!


「我が人生に悔いなし……!」

「分かります、ご主人様! ここまでの逸材は中々お目に掛かれません! 明日からでもウチのエースとして働いてもらいたいくらいお可愛いです♡」


 出逢った時から美人だとは思っていたのだが、ここまでだとは思わなかった。

 店内の視線を独占する可愛らしさ。彼氏としてこれほど誇らしい気持ちになったことはない。


「うぅ……、まさかこんなことになるなんて、思ってもいなかったです」

「いや、話したら来ないって言われるかなと思って。騙すようなことをして申し訳ない」


 ——と、言いつつカメラを回す俺。

 こんな可愛いモデルを撮らないバカがいたら会ってみたいものだ。


「もしかして紘さんってメイドさんが好きなんですか? さっきからテンションが高いですけど」

「んー、嫌いではないかな? ——いや、ごめんなさい。めちゃくちゃ好きです。でも、実際にメイドさんを見たの初めてだから、自分でも気づいてなかったよ」


 以前から興味はあったのだが、コスプレに抵抗があって切り出せなかったのだ。だが今回のことで、思い切ってお願いして良かったと心底歓喜した。


「この動画って、顔も出すんですか? 流石にそれは恥ずかしいんですけど」

「いや、顔は隠して編集するから大丈夫だよ。ただ、俺用には別途作るけど」

「紘さん用って、何をするんですか?」


 レンズ越しに見ていた杏樹さんから目を離し、肉眼で見つめ合った。胸元を寄せながら隣に座って、ねだるような仕草に胸が締め付けられる。


「個人的に楽しむように、ちょっと編集を」

「エッチなのを作ろうとしてるんですか……? 紘さんのエッチ」


 違う、そうじゃない!

 俺はあくまで可愛い杏樹さんの記録を残す為に!


「……っ、この際なんて言われてもいい! 代わりに両手でハートを作って萌ポーズをお願いします」

「もう……っ、いくらメイドさんが好きでも、他の人にそんなことを言ったらダメですからね? 紘さんの専属メイドは私だけなんですから」


 恥じらいながらも胸元の横でハートマークを作って——! その瞬間、俺の中のリビドーが弾けた。


 ———……★


「あの、すいません! この制服って買い上げることはできないんですか? 靴まで一式で欲しいんですが」

「待って、紘さん! それは流石に……!」

「できますよー! お買い上げありがとうございますー♡」


 元々はホテルでヒロインコスプレをして盛り上がる予定でしたが、それは描写が難しそうなのでメイドコスに変更しましたw

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