第43話 たまには健全なデートでも?

 絋side……★


「実は少し遠方にはなるんですけど、紘さんが好きな漫画家の原画展があるらしいですよ? 行ってみたらどうですか?」


 崇が薦めてくれたのは昔から好きな漫画家のアニメフェアー。連載当初から単行本を集めるくらい好きで、過去作も読破しているほどファンだった。


「マジで? 一番近くて隣の県か。いつまでしてんだろう」

「今週いっぱいだった気がします。本当は俺も行きたかったんですけど、仕事の都合で厳しくて。もし紘さんが行くならポストカードと原画集買ってもらいたいと思ったんですけど、どうですか?」

「あー、いいよ、それくらい。他にも買ってこようか?」


 仕事の目処もついているし、明日にでも行ってこようと新幹線の予約状況を見ていると、遠くで聞き耳を立てていた杏樹さんが近づいてきた。


「紘さん、一人で行くんですか?」

「え? 何で?」


 土日ならともかく、明日は平日。杏樹さんは学校がある日だ。受験生なんだからサボらずに行かないとダメだろう?


「私、進学校受験じゃないし、推薦だから余裕があります」

「いやいや、だからってサボっていい理由にはならないって」

「なら紘さんが日にちを変えてください。私も一緒に行きたい……」


 唇を尖らせて拗ねる様子が可愛い。

 何だ、この子。あざと可愛い系か?


「なら金曜日に行けば? 午後から早退ならいいんじゃないですか?」


 崇は助け舟を出したつもりなのだろうが、午後からって——……嫌な予感しかしないのは俺だけだろうか?


「いや、俺は日帰りで帰ってくるつもりだったんだけど」

「崇さん、ナイスアイディアです! ね、紘さん。金曜日なら私も都合がつくし、ゆっくり見れますよ? ホテルも私が手配しておくので」

「いやいや、日帰りで帰るって! 新幹線で帰れば問題ねぇし!」


 断固として宿泊を拒否する俺に、崇と杏樹さんは「意気地なし」とか「いけずー」とブーブー文句を垂れていた。


 おい、崇。画集買ってこねぇぞ、コラ。


「まぁ、それでもいいです。紘さん、恋人同士になって初めてのデートですね♡」


 にんまり笑みを浮かべて、可愛いったらありゃしない。改めてこんな可愛い子が自分の彼女だなんて信じられない。


「ってか、杏樹さん。この漫画読んだことあるん? 知らないと展示見ても面白さ半減かもしれないけど」

「私は紘さんと一緒なら何でも楽しいから問題ないですよ」


 ——そして、随分と変な方向に病んでしまったなとも思い知らされた。

 この重さ、嫌いではないが……。


「杏樹さん、もし良かったらBlu-ray貸そうか? アニメだけでも予習しておけば面白いと思うし? 紘さんに解説してもらいながら見ればいいよ」

「え、いいんですか? 借ります、お願いします!」


 またしても杏樹さんに対してアシストを決めた崇。

 おいおいおい、アニメを観るって言ったって、この子は絶対に見ない。一時的に添い寝を解消したせいで、別々に寝ることになった俺の部屋に来る口実を作ろうとしているだけなのだ。


「紘さん、時間もないし今夜からよろしくお願いしますね?」

「………一人で見た方が、絶対に頭に入ると思うけど? 普通に面白いから解説なんて不要だって」

「ダメなんです、紘さんも一緒じゃないと面白くないんです! だって、ほら。何か悪魔とか出て怖そうじゃないですか。一人で見たら恐くて寝れなくなります」


 おいおい、自習はどうした?

 来るべき記念日の為に自分磨きをするって約束をしたのは誰だった?


 いや正直、杏樹さんと出会ってから俺の方が限界が近かった。

 彼女が学校に行ってる間に睡眠を取ったりしているものの、我慢ばかりの日々は身体に堪えた。いや、堪えたというよりも毎回限界ギリギリなのだ。


(可愛すぎて、抱きたくて仕方ねぇんだよ……! あんな際どいことをしておいて、今まで通りに添い寝だけできるわけがない)


 しかも手加減なしに甘えてくるからタチが悪かった。勢いのまま行為に及ぶことができればどれだけ幸せだろうか……。


「紘さんはビールとナッツ、ポテトでいいですか? 私はバターポップコーンとカフェオレ。今日の夜は眠れませんね♡」


 ニンマリと笑った後に舌をペロっと出して、あざといにも程がある。


「いいなー、俺も千華さんと一緒に映画でも観よっかなー。千華さんは早く寝るから結局一人で観ることになっちゃうしなー」

「ん、なら一緒に観るか? 崇も一緒に予習しねぇ?」


 俺の言葉に、杏樹さんも崇も心底呆れた表情で黙り込んだ。


「紘さん、アンタって本当にブーブーブーっす。冗談でもお断りです」

「そうですよ? ねぇ、崇さん。やっぱ私達気が合いますね」


 イエーイってハイタッチして、いつの間に仲良くなったんだ、杏樹さんと崇そこの二人

 悪魔だ、コイツら人間の面を被ったサキュバスとインキュバスなんじゃねぇの?


 同盟組んだ二人には敵わないと判断した俺は、千華さんを味方につけようとソファーでくつろいでいる彼女に声を掛けた。


 だが、俺は思い知ることとなる。

 このシェアハウスに俺の味方などいないのだと……。


「え、紘さんと杏樹ちゃん、一緒にお泊まりデート行くの? それじゃクリスマスの予定を巻いて金曜日が記念日だね。紘さん、杏樹ちゃんへの前準備頑張ってねー」


 何でクリスマスのことも知ってんの?


 これは完全に外堀を埋められている……⁉︎


(何でだ? 元々は皆、俺の知り合いのはずなのに、気付けば杏樹さんの手の内に堕ちている……?)


 どうしようもない状況に観念した俺は、言われるがままに杏樹さんと一緒にアニメ鑑賞をすることとなった。


 もちろん、彼女がまともに観たのはOPくらいだった。


 ———……★


「意志が弱い自分が嫌になる……! もうヤダ、俺の馬鹿野郎ー……!」


 杏樹ちゃん、やり手です(笑)

 崇、何気にお兄ちゃんになった気分を味わってそうだなと予想です✨


 そして次回、お泊まりデート編!

 ちなみに紘の好きなアニメは『チェンソーマン』をイメージしてますw

 パワー大好き♡ ナユタもね……皆、復活してくれないかな?

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