第26話 男として、どうするべきか?

「もっと恋人っぽいことを絋さんとシたいんです。ダメですか?」


 さっきまで蕩けるようなキスをしていた水着美女が、もっとエロいことをしたいからホテルに泊まりたいと言っているのだが?


(さっきのキス以上のことをするのか? いや、俺は無職。彼女のことを幸せにすることもできないのに、許されるのか?)


 本音を言うなら、ヤりたい。キスだけでこんなに気持ちがいいのだ。杏樹さんとのエッチなことを考えただけで昇天しそうだ。


 だが、だが……! 


 壮大な葛藤を繰り返していた俺を心配しているのか、オロオロした杏樹さんは掴んでいた手を離して隠れるように口元まで水に浸かり出した。


「杏樹さん……?」

「やっぱりいいです……変なことを言ってごめんなさい。ワガママばかり言ったら絋さんも困っちゃいますよね」


 振り返ったせいで彼女がどんな顔をしているのか分からなかったが、震えた声色から無理していることだけは伝わってきた。

 泣いているのか、怒っているのか。


 だが、何が理由であれ、俺の勝手な都合で杏樹さんを悲しませたことには変わりない。


 ——覚悟を決めろ、俺!


「俺も杏樹さんともっとキスしてぇし、それ以上のこともしたい。けど!」


 そこまで言いかけて止めてしまった。


 ………?

 さっきから杏樹さん以外の視線を感じているんだけど?

 キョロキョロと回りを見渡したが、それらしい人も見当たらない。


「……けど、何ですか?」

「あ、いや……さっきも伝えたように、俺はちゃんと告白して交際を始めたいんだ。だから杏樹さんが卒業するまで待ってて欲しいんだけど」

「でもそれって、絋さんの都合ですよね? 私は別に絋さんが無職でも気にしないんですけど……。絋さんはちゃんと将来のことも考えて下さっているし、今付き合ってもいいじゃないですか?」


 うぐっ、それを言われると何も言い返せない。


「それに待ってくれって言う割には、さっきみたいにキスしたり……もしかして私のことを弄んでいるんですか?」

「違……っ! それは決してない!」


 何でだ? 何で誠実であろうとすればするほど墓穴を掘ってしまうんだ? いや、杏樹さんの言うとおりキスしたりエッチなことをしているせいだということは俺も分かっているのだが、それならどうすればいいんだ?


 無職でもいいから告白して付き合えばいいのか? 本当にそれが正解なのか?


 するとプールから出てきた杏樹さんがギュッと抱き付いてきて、首の後ろに手を回すと有無言わずにキスをしてきた。


「私だって、本当は絋さんが自信持てるまで待とうと思っていたんですけど、今日みたいなことをされたら我慢できなくなって……もっと欲しくなっちゃったんです。絋さんがいけないんですよ?」

「は、はい……、俺が全部悪いと思います」


 反省した俺を見て、杏樹さんは綻ぶような笑みを浮かべた。


「……うん、分かってくれたらいいんです。それで私も思ったんですけど、これからもキスだけはしませんか? それで我慢しますから」

「うっ、き、キスだけならいいけど……」


 あの、先生。そのキスにディープキスは含まれるんですか——なんて聞いたら、火に油を注ぐだけだろうからやめておこう。


 まさか杏樹さん、今後もキスをする為に、あえて押して引く作戦を試したのか⁉︎


 俺の性格、熟知しつつある?

 外堀埋めて攻めてくる手法か?


 こうして俺は、キスまで許された抱き枕へとアップグレードされたようだ。


「これからは眠る前にキスもして下さいね?」


 そんなことをされたら、さらに眠れなくなるんだけど? 杏樹さんは俺のことを本気で殺しにかかっているのだろうか?


(早く仕事を探そう。それも早急に、少しでも早く彼氏彼女になる為に)



 ———……★


 こうして円満に終わったと思われたナイトプールだったが、俺たちのことを影から見ていた人物が舌舐めずりしながら眺めていた。


「あれって確か転入生の及川さんよね? へぇ、あんなかっこいい彼氏がいたんだァ♡」


 Eカップはありそうな巨乳のロリータ美少女。

 アイドル並みに可愛い女の子が指を咥えて眺めていた。


「いいなぁ、欲しいな♡ 莉子りこもあんなイケメンで大人の彼氏が欲しいなァ♡」


 こんな危険なセリフを吐き出す要注意人物に目をつけられているとも知らず、俺達は浮かれ気味にシェアハウスへと帰って行った。


 ———……★


絋「杏樹さんライバル登場……? え、寝取り? 寝取られるん?」

杏樹「………絋さん、万が一でも他の女の子に触れたら……私、切ります」

絋「(下半身を押さえながら)何を⁉︎」


 緩急をつける為に少し情けない絋になってしまってすいません💦

 このままじゃ、ノンストップまっしぐらだったので(苦笑)

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