第25話 恋人同士なんだから 【♡有】
ナイトプールの定番、派手な浮輪!
レンタルショップから大きめの浮き輪を借りたのはいいものの、どうやって乗ればいいのだろうと二人してアタフタとしていた。
「と、とりあえず二人で掴まっていたらいいのかな? ごめんなさい、実はあまり泳ぎは得意じゃなくて」
「そうなんだ。いざとなったら俺にしがみついていいよ。俺がちゃんと支えておくから」
そう言って浮き輪をしっかりと掴んでいた杏樹さんの背後に回って覆い被さるように浮輪に掴まった。
ビクッと肩を大きく揺らす彼女を見て、間違えたと後悔した。
密着度合いが半端ない。
杏樹さんのお尻が腹部に当たる。深さはそれほどないのだが、彼女がピョンピョンと床を蹴るたびに身体が当たって、いけないことをしている気分になる。
「ま、毎晩抱き合って寝てるのに、それとは何か違って……は、恥ずかしいですね」
「た、確かに」
体勢を変えようと、彼女の腰に手を置いて浮輪の違う箇所に手を置いた瞬間、驚いた杏樹さんが「ひゃっ!」っと声を上げて足を滑らせた。
マジか! 支えるって言った手前から溺れさせるわけにはいかないと、急いで彼女を抱き寄せてしがみついた。
「大丈夫? 水飲んでない?」
目を大きく開いて泣きそうになっている杏樹さんを見て、気を引き締めなければと反省した。言い訳ではないが、まさかあんなに反応を示すとは思っていなかったのだ。
「こ、怖かった……! 溺れるかと思った」
「ごめん、俺も油断してた。大丈夫?」
バックハグの状態で俺の腕にしがみついていた杏樹さんの正面に立って、そのまま包むように抱き締めた。
そうだよな、泳げない人間からしてみれば恐怖でしかないよな。小刻みに震える彼女の肩をトントンとリズムを取って、落ち着くまで抱き締めていた。
「杏樹さん、やっぱり浮輪に乗ろうか? その方が怖くないかも」
「え、でもひっくり返ったりしない? 本当に大丈夫なの?」
「大丈夫、あの人達も楽しく遊んでいるし、乗ってるだけでいいと思うから」
そして俺は杏樹さんの背中と足に手を添えてお姫様抱っこをして、そのまま浮き輪へと乗せた。
スポッと穴の中にお尻がハマって、硬直させたままプカプカと浮かんでいた。
「え、え? こ、絋さん? これでいいんですか? あの、私、流されていくんですけど」
「大丈夫、俺がちゃんと掴まえておくから。杏樹さんはプカプカ浮いていればいいよ」
虹色に輝いていたプールの照明が、今度は青とオレンジを基調にしたライトアップへと変わって、幻想的な水面の中を二人で浮かんでいた。
「綺麗……、ちょっと雰囲気が変わりましたね」
「楽しそうからムーディーな感じになったな。けど落ち着くかも、こういう雰囲気も」
しばらく雰囲気に見惚れていた俺たちだったが、さっきまで水を怖がっていた杏樹さんが姿勢を崩して足を下ろそうと試みていた。
「杏樹さん、そんな動いたら浮輪がひっくり返るよ?」
「だ、大丈夫です。だってこのままじゃ、絋さんと距離があるから」
ゆっくりとプールの底に足を付けた杏樹さんは、今度は浮輪ではなく俺にしがみついて顔を埋めてきた。
「だって、せっかく恋人同士なのに……離れているなんて寂しいです。ここにいる間は、思いっきり甘えるって決めてきたから」
ゼロ距離で抱き締め合った俺達は、しばらくお互いの存在を確かめ合うように腕を回し合っていた。
あぁ、いっそのこと、このまま時間が止まってしまえばいいのに。
彼女の潤んだ瞳には俺が映っていて、きっと俺の瞳にも杏樹さんが映っている。そんな甘い空気に背中を押されるかのように、顔を近づけて唇を近付けた。掠めたような、わずがなキスを交わし合い、今度は押し付けてしっかりと口付けた。
「んんっ、ン……」
強くとじられた唇。そんな不慣れで強張った彼女の開かずを開こうと、ゆっくり唇の間から舌を忍ばせて舐めた。
それでも変わらない反応に、俺は
「力抜いて、杏樹さん。少しでいいから唇を開いて、舌を出して?」
俺の言葉を聞き入れてくれたのか、彼女の舌が隙間から僅かに覗かせた。ペロっ、ペロっと舌先だけをくっつけて、そのまま唇を覆うように吸い出した。
「ンンッ、待って……! 絋さ……あの、待って」
ぐいっと胸元を押して、杏樹さんの抵抗を目の当たりにして俺はショックを覚えた。
や、やり過ぎたか?
「息が、苦しくて……。もう、絋さんズルい。こんなキスをいきなりするなんて」
「——んじゃ、もうやめる?」
杏樹さんは困ったような顔をしていたけれど、少し黙り込んで「ズルい」って再び呟いた。
「もっと……シたいです」
真っ赤な顔をしながらねだってくる杏樹さんの希望に添い、俺達は再び快感を分かち合った。
長めに重ね合ったり、チュッチュと啄み合ったり、角度を変えて求め合ったり。
いきなり深いキスをすると困惑するんじゃないかと思って幼い子供のキスを続けていたけれど、それでも杏樹さんは高揚した蕩けるような目で色っぽい吐息を吐いた。
「幸せ……。好きな人とするキスって、こんなに特別なものなんですね」
本当のキスはこんなものじゃないよと言いかけて、俺は言葉を飲み込んだ。
「もっと杏樹さんとキスがしたいな。あっちの茂みにいって続きをしようか?」
言われるがままに頷く彼女を抱き寄せて、そのままヤシの木や観葉植物で茂った奥へと入って、再びキスを交わし合った。
数分、数十分……飽きることなく、ずっと、ずっと。
「——ぷはっ、……ハハ。あー、俺達って何しにプールに来てんだろうね。泳ぎもしないでずっとキスばっかりして」
「本当だ……。でも、今日しか恋人同士でいられないから、私はもっとキスしたいです」
可愛いことを言ってくれるな、本当に。
でもこれ以上は戻れなくなる。今日限定で終われる気がしない。
続きは俺の就職が決まってからだ。
「そろそろ閉店の時間だろうし、崇達と合流しようか? ってか、先に帰ってる可能性もあるか。スマホ見てないから怖いな……」
プールから上がってロッカーへと向かった俺の足を掴んで、杏樹さんが引き留めてきた。
あ、危ねぇ。急に掴まれたら転ぶぞ?
「あ、あの! 恋人同士の期限は、このホテルにいる間までですか?」
「——え?」
「次は絋さんが告白してくれるまでお預けなんですよね? なら私は……ギリギリまで恋人同士でいたいです」
杏樹さんの覚悟を肌で感じ、身震いを覚えた。
「今日は……このホテルに泊まりたいです。恋人同士として、絋さんと」
———……★
千華「ちなみに私と崇さんは、空気を読んで先に帰りました!」
崇「(絋さん、意外と肉食だな……エロ!)」
茂みに入って続きをって言った時には「悪い大人だな、絋w」っと草が生えました(笑)
ってか、最近のこの二人、すごい(笑)
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