第24話 パーカーの下の……【♡有】

 とりあえず緊張をほぐそうとカフェスペースへと来た俺達だが、何を買おうか?

 一先ずすぐ買えそうな店を選んで、セクシーな女の子達と楽しく談笑しているホスト風店員に注文をした。


「とりあえずソフトクリーム一つ」

「はーい、少々お待ちを」


 予めチャージしていたカードで支払いを済ませて出来上がるのを待っていたが、ホスト店員は話に夢中になってばかりで一向に作り始めなかった。


 おいおい、こっちはもう支払い済みなのに。ちゃんと仕事をしろよ?

 お酒を飲みながら適当に仕事をしていて、正直不満しか生じなくてイライラが募っていった。


「それで俺は言ってやったんだ。『おい、オッチャン! 社会人としての義務も果たさねぇでデカい面してんじゃねぇぞ』ってな」

「あはは、根岸かっこいいじゃん! アンタの武勇伝でビチャビチャに濡れそうだわー」

「水溜まり作られたら営業妨害になっから、俺が栓をしてやろうか? 俺はいつでもいいぜ?」

「キャハハー、最高! 根岸ィ、今すぐ抱いてェ♡」


 下品極まりない——……。

 こんな下世話な会話をしてる奴らに杏樹さんのを近づけたくない。せっかく初のナイトプールに胸を躍らせてきたというのに、出鼻を挫かれた気分だ。


 こんな輩からは少しでも早く立ち去ろう。


「あの、待ってるんですけど」

「ん、あぁ。すいませーん、作りますんで」


 ぶつくさと文句を言われながら渡されたのは、溶けかけのソフトクリーム。今にも指まで垂れてきそうだ。

 流石にクレーム物だろうと声をかけようとしてが、止めてきたのは意外にも杏樹さんだった。


「大丈夫、急いで食べれば問題ないですから」

「けど、こっちは客なのに」

「絋さんも一緒に食べてください。早くしないと本当に溶けちゃう」


 くそ、あのホスト店員。命拾いしたな。


 耳サイドの髪を指ですくい、舌を出してペロっと舐める杏樹さんに続いて、反対側に齧り付いたのだが……この至近距離は反則だった。


 溶け出した白いクリームを器用に舌で啜って、エロい。しかもソフトクリーム越しに一緒になって舐め合っているなんて、こんなの意識しない方がおかしい。


「ん、ンン……っ、冷たっ。あぁ、落ちちゃった」


 間に合わなくて杏樹さんのパーカーの上にソフトクリームが落ちたようだ。しかも谷間の辺りに。絵面がエロい……!


「せっかく買った水着が、あぁ……っ」


 よくあるエロゲー導入イベント。ゲームでは白濁液に疑似させたアイスと一緒に、ぶっ太いコーンまで谷間に突っ込まれてパイ⚪︎リを連想させる画面が映されがちだが、実際も悪くないと目が釘付け状態だった。

 唇についたクリームを指で拭う仕草や、谷間に流れて溜まる白い液体とか——。


 ゴクリと、思わず生唾を飲み込んでしまう。


「絋さん、ごめんなさい。少し拭いていいですか?」


 そう言って目の前でジッパーを下ろして、初めて水着姿を露わにして見せた。

 白くて柔らかそうな双丘を包む黒い布。こんな魅惑的な光景を俺だけが見ているという事実に、さらに興奮を覚えた。


 しかも、誘惑はそれだけで止まらなかった。ティッシュを持った彼女の指が、谷間、そして水着の下に入っていく。奥へと進むにつれて、見てはいけないものを見ている背徳感が襲ってきた。


「あ、絋さん。アイスが溶けてる」


 見惚れていた間に指まで垂れていたクリーム。そんな俺の指をペロっと舐めて、彼女は悪戯に上目で覗き込んできた。


「この前のお返し……♡」


 か、可愛い、可愛い、可愛い可愛い可愛い!

 エロい、押し倒したい! 今すぐキスしたい!


 煩悩まみれで嫌になる。

 だが、めちゃくちゃ好きだ!


 けど、せめて無職を卒業していないと、自信持って告白なんて出来ない。全く、俺はこんなところで何をしているのだろう? 本気で杏樹さんを守りたいと思うなら、少しでも多くの優良企業を調べるべきだろう。


 だが、指を複雑に絡ませて微笑む杏樹さんを見て、頭の中が真っ白になった。


「えへへ……、こうして絋さんと一緒に遊べて嬉しいです。周りから見たら恋人同士に見えるかな、私達」


 抱き締めたい、抱き締めたい……!


 来てしまった以上は楽しむしかない。就活は明日から本気を出す! 今日は杏樹さんを楽しませるのが最優先だ!


「杏樹さんは泳げる? せっかくだからプールに入ろうか?」

「え、はい……! あの私、せっかくなら浮輪でプカプカ浮かびたいです」


 杏樹さんが指差した先にあったのは、フラミンゴの浮輪でイチャイチャしているカップルの姿だった。浮輪に座っている彼女に彼氏が抱き付いて、これ見よがしにベタベタしている。どさくさに紛れて胸元を触っているようにも見えるし、いいのか?


 ——いや、そもそも今からアレを俺達がするのか⁉︎


「絋さんが戸惑う気持ちは分かるんですけど、その……今日だけは恋人同士ってことで、一緒に遊んでくれたら嬉しいです」

「い、いや、恋人同士じゃなくても一緒に遊べるし?」


 だが、それでは杏樹さんはご不満なようだった。俺の腕をしっかり掴むと、恥ずかしそうに耳元で囁いた。


「だって……友達同士じゃ、遠慮しちゃうじゃないですか……? 私も遠慮なしに触るので、絋さんも今日だけは彼女にするみたいなことを私にして下さい」


 くすぐったい感触が耳を刺激する。ゾクゾクする、背伸びをする為に置かれた肩の手とか、腕に密着している胸元の感触や、熱い吐息も全部、全部ズルい。


 それでも最後の理性を絞り出して必死に耐えていたのだが、不意にされた彼女からの頬へのキスで、この前の夜を思い出し、俺は欲に負けてしまった。


「きょ、今日だけ……。本当に今日だけでいいなら」

「えへ、やった♡ 私、優しい絋さんが大好きです」

「俺は困っちゃうんですけどね、こんな小悪魔な攻撃……。杏樹さんのことが大事だから、頼むからちゃんと付き合う時には改めて言わせてな?」

「え、ちゃんと……?」


 そりゃ、そうだ。こんな流されたような状況ではなく、ちゃんとしてから告白してやりたい。

 だがその言葉が思っていたよりも杏樹さんに響いたようで、茹でタコのように顔を真っ赤にして固まっていた。


「こ、絋さんの方がズルいです……! そんな言われたら期待しちゃう。それでやっぱりやめますって言われても、絶対に離さないですからね?」


 美少女の恥じらい、可愛すぎかよ!

 こんなやり取りを繰り返しながら、俺達はやっとレンタルショップで浮輪を借りてプールへと入って遊び出した。


———……★


「って、今日だけは恋人同士って……! ど、どこまでいいんだ? キス、ハグ、もしかしてそれ以上も?」


この二人、やっとプールに入ってくれましたよー……長かったな(笑)

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