02/病み×溺愛

第18話 シェアしませんか?

 晴れてカップル(仮)となった俺達だが、本格的に同棲をするとなると目を逸らせない一つの問題が浮上してしまうのであった。


「こんな狭い部屋に(美少女と)二人で生活するのは無理があるだろう」

「え、そうですか? 私は全然気にしませんよ? だって絋さんとの距離も近いし、くっつける口実になるし」


 だぁぁぁぁ! やめろ、隙あらばくっついてくるのはやめてくれ!

 理性が持たねぇんだよ!


 告白して以来、積極的になってきた杏樹さんがやたらとボディタッチをしてくるので、非常に困っているのだ。

 俺のなけなしの理性がボロボロに崩れ去って、砂屑と化して吹き飛んでいく様が目に浮かぶ。


「——とはいえ、引っ越しをしようにも問題が一つあってな。俺は無職……つまり社会的信用がゼロに近い。よって賃貸の契約ができない可能性がある」


 威張っていうことではないのだが、これが現実で紛れもない事実だ。ランクダウンはできたとしても、今より広い部屋を借りるのは厳しいだろう。


「そこで……実は親友の慎司から一つ吉報をもらったんだ」

「吉報?」

「知り合いがシェアハウス事業を始めたので、格安で試してみないかって誘われたんだ。家賃も今の半分で済む上に、光熱費なんかも安くなる! ネットも使い放題だし、共有スペースでは映画やフィットネス器具も使い放題! どうだろう、杏樹さん? 一緒に住んでみないか?」


 こんな夢のような情報を持ってきてくれた慎司には感謝しかない。きっと杏樹さんも喜んでくれるだろうと思ったのだが、何故か渋い顔をしたまま黙り込んでしまった。


「い、いや?」

「だって……シェアハウスってことは絋さん以外の人もいるんですよね? 他の人と一緒に生活するのは少し抵抗が」


 何だ、その問題か。

 いや、女性にとっては大きな問題だろう。だが安心して欲しい。今回の企画は4人、1年限りのキャンペーンで残りの二人も決まっているのだ。


「実は崇と千華さんも参加予定なんだ。気心もしれているし、悪い話じゃないと思うんだけど」

「千華さんとですか⁉︎ それならいいです! 大賛成です」


 そう、実は崇達もストーカー問題などがあったせいで引っ越しを検討していたようで、この四人でならと了承してくれたのだ。俺と崇は旧知の仲だし、お互い恋人同士なので気を使わずに済む。


(これが他の男なら寝取られとか心配するが、崇の性格上あり得ないだろうし大丈夫だろう………多分!)


「私、女の子の友達とかいなかったから、千華さんと一緒に話したりするの楽しみです。あ、でも最近は学校でも友達が出来て、良い感じなんですよ?」

「へぇ、そうなんだ。ちなみにどんな子?」

「鳴彦さんの彼女でミヨちゃんって言います。彼氏をメロメロに溺愛させる方法とか、色々教えてくれるんですよ」


 ——いや、杏樹さん。それって大丈夫なのか?

 鳴彦の彼女……、普通なら避けるべき人物だけど、こんなに嬉しそうに話す彼女にダメとは言えない。

 いや、むしろ強力な味方になるのか?


「少し前の私からは想像できないくらい幸せで……。私は絋さんに出逢えて、本当に良かったです」

「……そっか、それなら良かった。その代わり何かあったら俺に何でも相談して? 俺が杏樹さんを守るから」

「はい……♡ 絋さんに全部、全部話しますね」


 若干病み具合が増した気もするが、恋に目覚めた女子なんてそんなものだろう。ちょーっと目がトローンとしがちになって、ハートが浮かんで見える気がするが、俺の勘違いだ。きっとそうに決まっている。


 こうして俺達は崇達と一緒にシェアハウスを始めることとなった。


 ———……★


ミヨ「えぇー、及川先輩、シェアハウスに引っ越すんですか? いいなぁ、私もナル先輩とシェアハウスに住みたいなぁ♡ 私達も住んだらダメですか?」

絋「だめ、絶対にダメ。何のために前薗家から逃れてきたと思ってんだ、コラァ!」


 ——ごめんね、ミヨ。君はナル先輩とイチャイチャ同棲をして、永久に野獣を縛り付けてくれ。

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