第17話 朝、目を覚ましたら美少女
絋side……
「私は絋さんと恋人らしいことがしてくて、ずっとギューっとしてもらいたかったです」
何度思い出しても口元がニヤけて、どうしようもなかった。まさか杏樹さんが俺のことを男としてみてるとは思っていもいなかった。
「親戚の男のせいで男性恐怖症になってると思ったくらいだもんな。あー、ヤベェ。ニヤニヤが止まんねぇ」
とはいえ、今の自分は元社畜の無職。とてもじゃないけれど杏樹さんの彼氏だと胸を張れやしない。
慎司を見習ってデイトレーダーにでもなるか? だが株や為替にはギャンブルのイメージが強くて、素人が手を出してもカモにされるだけな気がして、簡単には手が出せない。
「そういや状況は変わったんだから、流石に添い寝はやめるよな?」
「え、何でですか? 私の一番のアピールタイムを奪わないでください」
「アピールは十分もらってるんだって。一緒に同棲を続けているだけでも良しと思ってくれ」
珍しく唇を尖らせて拗ねている杏樹さんを見て、年相応の可愛さを見出した気がした。
いや、本当に……こうしてコロコロ変わる表情を見ているだけで癒される。
「わかりました……。でも、寂しくなったら絋さんのベッドにもぐりこむかもしれません。それはいいですか?」
「いや、ダメだろ? 確信犯にも程がある!」
今度はクスクスと笑みを浮かべて笑っている。
か、可愛い……っ! もうやめてくれ、添い寝がなくても、十分理性崩壊しています!
———……★
それからしばらくして俺達は、それぞれのベッドで眠り始めた。
「おやすみ、杏樹さん」
「おやすみなさい、絋さん」
今日こそは安眠できる! 久々の独寝に安心しながら眠りについたが、何かが物足りない。何度も寝返りを打ったり、目を閉じて瞑想しても眠りにつくことができなかった。
(ヤベェ、あー言ったものの、俺もすっかり杏樹さんとの添い寝に慣れてたんだ)
慣れていたというよりも、それがないと物足りなく感じるというか……。
思わず両腕が、何かを求めるように蠢いてしまう。
暗闇の中で身体を起こして杏樹さんが寝ている方を見ていたが……どうやら彼女も同じことを考えていたようだった。
「杏樹さん、寝た?」
「——いえ、寝てないです。眠れないです」
真っ暗な部屋の中で、囁くように発せられた言葉に胸が締め付けられた。
熱くなっていく顔を両手で押さえ込んで、大きく息を吐き出した。
自分で拒んでおきながら、なんて都合がいいことをと自己嫌悪に陥る。
だけど、それでも……気付けば俺は素直な気持ちを吐き出していた。
「杏樹さん、眠れないなら一緒に映画でも見ない?」
俺のことが好きだという美少女を、深夜の映画に誘うなんて背徳的にも程がある。嫌なら断ってもらっても構わないと半ば諦め気味だったが、俺の誘いに杏樹さんは頷いてベッドから降りてきた。
「………何を見ますか? 私は恋愛映画が見たいです」
「ゾンビとか幽霊の類のホラー以外なら何でもいいよ」
こうして二人でベッドに潜り込んで、タブレットを共有しあって映画を見ることとなった。
いつもそばにあった体温が懐かしい。ギュッと俺の腕にしがみつく杏樹さんを見て、思わず微笑んでしまった。
「やっぱり私、絋さんが隣にいないと眠れないみたいです。これからも一緒に寝たいです」
眠たそうに目を擦りながら、こんな可愛いことを言われたらダメとは言えないじゃないか。
ここまできたら勘違いのままでもいい。杏樹さんを俺のものにして、愛で倒したいと思ってしまうから、本当に恋って恐ろしい。
結局、映画は途中までしか見ることができないまま二人して寝落ちしてしまったのだが、お互いにとって掛け替えのない存在同士だということを改めて実感しあった。
それから朝となり、俺は杏樹さんに起こされながら目を覚ましたのであった。
昨夜とは違う、清々しい表情の杏樹さんを見て、ムクムクと下半身が元気になっていったのが分かった。
「絋さん、おはようございます」
「お、おはよう、杏樹さん」
いつもと違うのは、彼女の密着具合。ぴったりとくっついて、半身が恐ろしく幸せな状況になっている。
(これが彼女(仮)がいる状況か! 死ぬ、このままじゃ身体が持たない!)
「絋さん……好き♡ 大好きです♡」
正直者になった美少女高校生は無敵過ぎる! 結局突き放すこともできず、俺は悶えながら朝を迎えることとなった。
———……★
「これから本格的に抱き枕にアップグレードしていくことでしょう(笑)」
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