第16話 私も……同じです【♡有】

「年頃の女の子がいるっていうのに、本当に申し訳ない! 今夜、俺は慎司の家に泊まりに行くから、杏樹さんは一人でゆっくり休んでください」


 床に額を擦らせて謝る絋さんに、私もどう言えばいいのか分からなかった。


「顔を上げてください……! すいません、私も突然のことで失礼な態度をとってしまっいましたが、むしろ絋さんが健全ってことが分かって安心しました」

「け、健全……? いやいや、どこが健全なんだよ! 杏樹さんを家に泊めているくせにエロ動画を見てるような奴、怖くねぇ? そこは自重しろって言いたいし! いや、本当は俺だって迷ったよ。迷ったけど性欲には勝てなかった……!」


 きっと絋さんは、前薗家での私の状況を知っていたから気を遣っているのだと思う。

 だけど、彼らと絋さんでは明らかに違う点がある。


 鳴彦さん達は自分たちのことしか考えていなかったけれど、絋さんは私に性欲をぶつけない為に自分で処理をしてくれたのだ。場合によっては「泊めた見返りに身体で払え」と脅すことも出来たのに。


「——絋さんは自分でする方が好きな人ですか?」

「………え?」

「あ、の……こんなこと私が聞くのも変かもしれないけれど、私といることでエッチな気分になったんですか?」


 しん……っと、静寂が辺りを支配した。


 わ、私のバカー……! そんなこと聞いたら絋さんだって返答に困ってしまうじゃない!


 顔を上げるのが怖い。絋さんの顔を見て、答えを知るのが怖い。


「えっと、それは……どういう」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい! あの、だって絋さんって、私のことを性的な目で見てこないし、手も出してこなしい、もしかしてゲイなのって思うくらいノーリアクションだったので! だから、その……!」


 パニックになった私の脳裏に、ミヨさんが言っていた言葉が過った。


『一先ず、どうすればいいのか分からなくなった時にはオッパイを見せれば大丈夫ですよ♡』


 もしかして今がそのタイミング?

 目の前がグルグルしてきた私は、咄嗟に制服の裾を握って、ガバッと捲り上げた。

 絋さんの目の前にはエッチな下着を纏った胸元が露わになった。


「——っ⁉︎ なっ、杏樹さん?」

「私も絋さんと同じで、ずっとモヤモヤしていたんです! 絋さんとその……こ、恋人同士でするようなことがしたくて、友達にこの下着を勧められて着てきたんです!」

「わ、分かった! 分かったから、その、胸を隠して!」


 カァーっと昇った血が下がり、少しずつ冷静さを取り戻した。


 や、やってしまったー……。

 私はもう、家を追い出されてしまうかもしれない。


「……えっと、それは——杏樹さんは俺のことが好きで、そういうことがしたかったってこと?」

「そ、そ、そ……そうです。絋さんのことが好きで、ずっとギューってして欲しかったです」

「そうなんだ……」


 その後、何らかの言葉を続けてもらえるかと思ったけれど、彼は黙ったまま何もリアクションを起こさなかった。

 やはり迷惑だったのだろうか?


「いや、俺も杏樹さんのことをいい子だと思っていたし、何ならこんな彼女が出来たら幸せだろうなと思ってたよ。だから杏樹さんの気持ちはすごく嬉しい」

「え、本当ですか! それじゃ」

「でもゴメン。素直に受け止められるかって言われたら、それは出来ない」


 絋さんの言葉に、昂っていた感情が冷めていくのが分かった。


「理由として、弱っている状況で優しくしてもらったことを恋を勘違いしている可能性がある。それと助けてもらった恩を返さないといけないと思って、無意識に自分を追い込んだ可能性も考えられる」

「まって、そんなの……絋さんにも分からないじゃないですか」

「………杏樹さんは子供で、俺は大人なんだ。俺は弱みにつけ込むようなことはしたくない。だけどそれは、杏樹さんのことを大事にしたいからなんだ」


 俯いていた彼の目が、真っ直ぐに私を見つめてきた。


「出来れば高校を卒業するまで。もしくは半年は期間を空けよう。時間が経っても同じ気持ちなら、俺も杏樹さんに交際を申し込むから」


 同じ……? 

 それじゃ、私は絋さんのことを好きでいていいってこと?


 バクバクバクと心臓が高鳴る。

 嬉しすぎて目の前がチカチカする。口元が緩んでヘラーっと笑顔が溢れてしまう。


「あ、杏樹さん?」

「——何だか夢みたいで、身体がふわふわします。あの、絋さんは待っててと言ってましたが、その間に私からアプローチするのは有りですか?」


 その言葉に彼は「うぐ……っ」と言葉を詰まらせた。


 確かに絋さんは勘違いかもしれないと言っていたけれど、私はこのトキメキを恋だと信じたい。だから一分一秒でも絋さんと楽しい時間を過ごしたい。


「けれど万が一、杏樹さんの思い違いの可能性も否定できないから一線は超えない! それだけは守ってほしい」

「分かりました! その一線は絋さんに委ねますから、私はガンガンアプローチしたいと思いますので、よろしくお願いします……!」


 こうして私と絋さんは、三歩退がって二歩前進したのであった。


———……★


「でも、結局アプローチは失敗しちゃったから、ミヨちゃんに怒られるかも……(しょぼーん)」

「いやいや、その性的アプローチ、壮絶な破壊力だからヤメて? 俺(と作者)、ガチで通報されかねん……」


え、どこからって? もちろんカクヨム様ですw R−15の壁は守らないといけないですからね……💦

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