第15話 想定外ハプニング 【♡?有】

 あれから時間が経ち、最速で届いた段ボールを笑顔に渡してきたミヨに、私の表情は固まってぎこちない笑みしか作れなかった。


「大丈夫です、先輩。先輩ならきっと上手くいきます。ミヨを信じて?♡」


 でもね、ミヨちゃん。この下着、あまりにも紐過ぎて、うまく着れないんだけど?


「全然隠れていない……! こんなの着てたら、流石の絋さんも引くんじゃないかな?」


 その他に渡されたのはヌルヌルローション、親睦を深めるためのマッサージ機。ヴヴヴヴヴヴッ……っと振動するそれを見て、違う用途を想像してしまう私は十分末期なのかもしれない。


 でもここで行動しなければ、卒業までずっと進展しない気がする!

 恥ずかしいけれど着るしかないと、意を決して着用することにした。


 ———……★


 思ったよりも時間が押してしまい、時刻は19時を回っていた。元々の予定を二時間も遅れたが、絋さんは怒っているだろうか?


 チーズたっぷりのグラタンを作ってくれると言っていたけれど、今日は諦めるしかないかもしれない。


「た、ただいま戻りました」


 ドアを開けて中に入ると、ソファーに腰掛けていた絋さんが慌てて立ち上がって駆け寄ってきた。


「杏樹さん! 良かった、無事に帰ってきてくれて」


 怒っているというよりも安堵したような。焦燥し切った表情に胸が締め付けられた。

 もしかしてずっと待っていてくれたのだろうか?


「どうだった? 学校では何も起きなかった? 親戚とは接触しなかった?」

「だ、大丈夫でした。話しかけてきたけど、もう話しかけてこないでって突っぱねました。私にも……ちゃんとできました」


 ウルウルと目を潤ませて話す私を見て、絋さんも感極まった表情で笑みを浮かべていた。


「そっか、偉かったな。やべ、杏樹さんが頑張っていると俺まで嬉しくて涙が出てきそうになる。歳をとると涙もろくなって敵わないな」


 他人事にも関わらず、自分のことのように喜んでくれる絋さんに改めて胸がキューっと締め付けられる。

 好き、大好き……やっぱり私は絋さんが好き。


「んじゃ、飯にしよっか。準備しておくから、テレビでも見て待っててよ。先に風呂に入ってもいいけど」

「ありがとうございます。それじゃテレビ見ておこうかな……」


 少しでもムードを盛り上げようと恋愛系のMVを聴きながらご飯でも……と思い、テレビをつけた瞬間だった。


『あァン! 激しィ……ッ、もっともっとォ、先生!』


 大画面で繰り広げられた男女の大人の営み。慌ててテレビの電源を落としたけれど、時すでに遅し。キッチンの彼に視線を向けると、絶望的に青褪めていた。


「あ、いや、これは……!」


 ——絋さん、普段テレビを見ないからって油断し過ぎです……。おそらく一人暮らしの習慣だったのだろう。そもそも私が居候したせいでリズムが狂っているのだから、私の方が「すいませんでした」と頭を下げて謝罪したくなる。


「杏樹さん、本っっっ当に申し訳ない! 今後は杏樹さんの目のつかないところに片付ける……、いや、全部処理するから!」

「い、いえ……お気になさらずに。絋さんも健全な男性なのでお気持ちは分かりますから」


 だが、実際にエロ動画を見て、気持ちが萎えてしまったと言えば否定は出来ない。

 自分以外の女性に興奮していたこととか、これから自分達もをするのかと思ったら気持ち悪く思えたのだ。


(女の人のアソコも男の人のアソコも気持ち悪い……。それに喘ぐ声も動物みたいで怖いし、歪んだ顔も全然可愛くない。私はあんな醜態を晒したくない……)


 少女漫画で見た時には、胸がときめいて神聖なもののように思えたのに、現実は生々しかった。


(明日、千華さんやミヨさんに相談してみよう……。あぁ、私もいつかは抵抗なくできる日が来るのかな……)


「あ、杏樹さん……。怒っていらっしゃる?」

「別に怒ってなどはいませんけど……。少しばかり(行為に夢を抱いていた自分に)呆れてしまって、すいません」

「(エロ動画を見ていた俺に)呆れたん……! お、俺……罰として今日はトイレで寝るので、杏樹さんはゆっくりベッドで休んで下さい」


 え? あれ? いつの間にか絋さんが肩をすくめて小さくなっている

 気にしなくていいのに。むしろ彼が健全だということを喜ぶべきなのだ。

 動画で発散するくらいなら、私とお付き合いをして——……!


「杏樹さんが安心できるように、卒業まで確固たる意思で戒めるから! 絶対に杏樹さんの前でエロい雰囲気やエロいものを見たりはしないから!」


 ——???


 まって、確かにテレビをつけた瞬間は、ショックのあまり落ち込んだけれど、むしろ大歓迎なのに? どうしてそんな流れに?


 こうして私と絋さんは、一千一隅のチャンスを不意にしてしまったのだ……。

 もちろん後日、ミヨさん達にせっきょうされたことは言うまでもないことだった。



 ———……★


「双方どんまいです(苦笑)」

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