第13話 結構マジで好きなんだけど
杏樹side……★
鳴彦への宣言を果たした私は、興奮を抑えきれず足早に教室へと向かっていた。
(言えた、言えた、言えた!)
今までは一方的に虐げられるだけだったにも関わらず、ちゃんと決別を言い渡すことができた。この興奮を抑えきれなくて、口角がニヤニヤと緩んで隠しきれなかった。
早く絋さんに会って褒めてもらいたい……。
きっと彼のことだから、私のことを甘やかすように撫で回して、優しい笑顔を向けて「よく頑張ったな」と褒めてくれるに違いない。
頭を撫でてもらうのが、こんなに嬉しいことだと思わなかった。
笑いかけてもらえることが幸せなことだなんて、初めて知った。
好きな人に触れるだけで身体の奥が熱くなるなんて、知らなかった。
全部上手くいく——何も問題ない。
だけど好きになったら真っ直ぐなのは、自分だけじゃなかった。
午前の授業が終わり、昼休みが始まろうとしていた時だった。三年の教室の前に他学年の生徒が立っていたので、目立って仕方なかった。それが校内でもイケメンで名が通っていた鳴彦だったから、余計に注目を集めていた。
「おい、杏樹。話しがあるから少し来いよ」
絶対に嫌だ——……。下着を盗んだり、脱衣所を盗撮するような男と二人きりになんてなりたくない。顔を背けて無視していると、ズカズカと教室に入ってきて強引に手首を掴んできた。
「ちゃんと話を聞けよ! 最後くらいは俺のいうことを聞いてくれてもいいじゃねぇか!」
「痛いって……! 私はあなたと話すことなんてない。あなたみたいに自分のことばかり勝手にいう人は嫌いなの」
居候させているからって、勝手に上から目線でズカズカ言われたくない。だが今回の彼は諦めが悪かった。一向に諦めない鳴彦に観念した私は「食堂でなら」と話し合いの場所を指定して了承した。
———……★
「お前さ、この前の男は何なんだよ? もしかして付き合ってるのか?」
「付き合ってるし、将来結婚する(予定だ)けど何?」
「この前までそんな奴いなかっただろう? オジさんオバさんの葬式にも顔を出さなかったような奴、俺は認めねぇぞ」
——何で鳴彦さんの許可を取らないといけないの?
赤の他人のくせに私の人生に口を出さないで欲しい。
「もしかしてオジさん達の遺産狙いなんじゃねぇの? きっとロクでもない奴だ、後戻りできるうちに別れて戻ってこいよ!」
何も知らないくせに、無責任な言葉にカッとして、机を叩いて立ち上がった。
「………私は絋さんになら騙されたっていい。その位好きな人なの。一生を賭けてもいいって思える程の人に出逢えたの。だから余計な口出しはしないで?」
「口は出すよ! だって俺は杏樹のことが好きだからな!」
告白と共に鳴彦も立ち上がって、そのまま腕を掴んできた。
周囲の視線が集まる。ザワザワと野次馬の囁きが大きくなる。
「放して……っ! そんなことを言われても困る」
「嫌だ。他の男のモノになるくらいなら、今からお前を連れ去って何処までも逃げてやる。だってお前のことが好きだからな」
大事なことだから二度言いました、みたいなことを言わないでほしい。
気持ち悪い……っ、嫌悪感のある人間からの好意がこんなに気持ち悪いだなんて知らなかった。今までどれだけの迷惑行為を私にしてきたか分かっているのだろうか?
呼吸が荒れる。上手く息が吸えない——……目の前が真っ白になって、意識が飛びそう。
「ハァ、ハァ……ッ、ハッ、ハッ……」
冷や汗が額に滲んで、混みかみを流れる。
ダメだ、もう——……。
過呼吸で倒れそうになったその時、急いで駆けつけてくれた女子が身体を支えてくれた。ぐたーっと力尽きた私に深呼吸を繰り返すように促して、対処に徹してくれた。
「及川先輩、大丈夫ですか? ゆっくりでいいですから、大きく息を吐いて……ハァー、ハァーって」
小さくてこじんまりとしているのに、しっかりしていて頼りになる。でも誰だろう……?
彼女は私のことを知っているようだけど。
「保健室に行きましょう。私が付き添うから安心してください」
その言葉に安堵した私は、身を委ねるように彼女に任せた。そんな二人を引き止めるように声をかけてきたのは鳴彦さんだった。
「おい、何のつもりだよ、ミヨ」
ミヨ……? 誰だろう、名前を聞いても分からない。だけど鳴彦さんは知っているようだ。彼の知り合いだろうか?
「もうナル先輩、ダメじゃないですか。及川先輩には大事な大事な愛するダーリンがいるんですから追い詰めちゃ。私にとってのナル先輩みたいな……ね♡」
まさか鳴彦さんにそんな女性がいたなんて知らなかったが……と、言うことは彼女がいるのに告白をしてきたってことなのか?
どうしよう、私にとって彼女は味方? それとも許し難い恋敵?
「及川先輩、大丈夫ですからねぇ。先輩がナル先輩を誑かさない限りは、及川先輩の恋を応援していますから♡」
まるで作られた仮面のように吊り上がった口角を見て、ゾッと寒気が襲いかかった。
手首には真っ赤に染まった包帯。真っ白な首元胸元には無数のキスの痕。
この子だけは的に回したらいけない。
もし裏切るようなことがあったら、きっと五体満足ではいられない。そう思わせるほどの危機を本能が訴え続けていた。
———……★
「本物のヤンデレ、キタ——(・∀・)——!」
本編に登場するにあたって、名字は変わっていますが、それが何故かは気づいた人だけの特権ですw
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