第12話 鳴彦の不意打ち 【プチざまぁ有】
「絋さん、お詫びってわけじゃないんですけど、これは前に千華さんに使っていた防犯グッズです。ボイスレコーダーにペンタイプの隠しカメラ。あと靴底に隠しておけるGPSです」
明日から学校へ行く杏樹さんへの備えとして崇が届けてくれたのだが、こんな大袈裟にしなくてもスマホがあれば問題ないんじゃないかと俺は思っていた。しかし、その類はすぐに犯人に気付かれて捨てられてしまうらしい。
「自分の場合はGPSが役に立ちましたよ。証拠を残すことも大事ですが、何よりも彼女の身を守ることが第一なので」
「崇の言うとおりだな。助かるよ、ありがとう」
最悪の場合、遠くへ引っ越して逃げることも出来るんだろうけれど、今の現状を維持したまま無事に高校を卒業し、進学して自立した人間になるのが好ましい。
そんな輝やかしい未来を秘めた杏樹さんを苦しめる前園家、その罪は万死に値する。
(金玉潰しても足りないくらい腹立つな……。何かいい方法がないものか)
「杏樹さん、俺に気なんて使わないで危険を感じた時にはいつでも連絡して。それに鳴彦の件だけじゃなくてクラスメイトとのイザコザとか、キツいと思ったら遠慮なく逃げていいから。無理しようなんて思う必要はどこにもない」
「でも、せっかく学校に行くのに」
「キツい時に無理する必要ないんだよ。大丈夫になるまで休めばいい」
ポンポンっと頭を撫でると、彼女の目尻から緊張が解けて柔らいで見えた。
「この一歩を踏み出しただけで十分に偉い。今日は俺が杏樹さんの好きなものを作ってやるからリクエストを頂戴?」
「いいんですか? それじゃ……チーズたっぷりのグラタンが食べたいです」
「了解、作って待ってる。いってらー、杏樹さん」
「行ってきます。絋さん、ありがとうございます」
余裕かましてヒラヒラーっと手を振って見送ったが、ドアがしまったと同時に胸元を握り締めて蹲った。
(絋さん? 絋さん⁉︎ 可愛い、可愛すぎるだろう! 名前呼びは反則だ!)
——というか、数日振りの一人きりだ! 俺は限界寸前だった性欲を発散させようと速攻でトイレに駆け込んだ。
だが、本当にいいのか?
このまま杏樹さんをオカズにヤっていいのか?
ここで一線超えてしまったら、健全な目で彼女を見ることができなくなるんじゃないか?
「違う、これは過ちを起こさないために発散する行為であって! 回り回って彼女の為になるんだ!」
こうして俺はどうでもいい事でウダウダと頭を悩ませて悶えていた。
———……★
杏樹side
絋さんと出会ってから初めての登校日。
正直、全部放り出して逃げ出したいと思って屋上へと登ったのだけれども、今の私には失くしたくないものができたから。
久しぶりに
「大丈夫、私のことじゃない。私のことじゃない」
改めて周りを見渡したけれど、誰一人として私の方を見ていなかった。そう、自分が思っているよりも他人は関心を向けていないのだ。
重たかった足に力を込めて、私は改めて一歩を踏み出した。
靴箱でシューズに履き替えて教室へ向かおうとしたその時だった。
数メートル先のトイレの前からジッと見つめるネチッこい視線。これは思い過ごしじゃない。
私はスカートのポケットに仕込んでいたボイスレコーダーの電源を入れて、万が一に備えた。
「よう、杏樹。家にも帰らずに無断外泊ばっかしやがって、先生にチクってやろうか?」
「あなたがそのつもりなら、私の下着を盗んだことを警察に訴えてあげるわ、鳴彦さん」
初めて言い返されたことに驚いたのか、鳴彦は顔を顰めて言葉を詰まらせていた。
冷静になってみると、実に小者感が漂っている。今までは家を追い出されたり、居場所がなくなるんじゃないかと怯えていたけれど、大丈夫。私が思っていたよりも彼は強くない。
「おい、待てよ! そんな生意気なことを言っていいのか? 弱みを握っているのはお前だけじゃねぇんだ。俺だってお前の脱衣中の動画を盗撮していて」
——盗撮? あまりにも下衆な言葉に蔑んだ視線を向けてしまった。
こんな人間が親戚だなんて、悲しすぎて血筋を恨んでしまう。
「どうせそんなことだろうと思って、タオルを巻きながら入って正解だったわ。本当に最低……このことは先生に報告させてもらって、私に近づかないように処置してもらいます」
彼はウグっと言葉を詰まらせた。
仮に他の人達に裸を晒されたとしても、こんな男の脅しに屈しるよりもマシだ。それにこの発言は私にとって武器になる。
(崇さんや千華さんの話を聞いていて良かった……。きっとボイスレコーダーがなかったら、ただただ怯えていただけだったかも)
「あなた達が私の両親の遺産狙いで引き取ったことは分かってる。今までお世話になった分は弁護士を通して支払うけれど、その他のお金は絶対に渡さない。私、もう鳴彦さん達の家を出るから」
やっと宣言できた開放感から、足がガクガク震えてきた。
一刻も早くこの場から立ち去りたい。変態の前から消えてしまいたい。
私は振り返ることもなく、真っ直ぐに走り出した。後ろから罵倒の声が聞こえたが無視して前へと走り続けた。
———……★
「くそ、俺は絶対に認めねぇからな! 杏樹、お前は地の果てまで追い回して俺のモノにしてやる!」
「絶対に嫌……! 私は絋のことが好きなんだから、アンタみたいな奴の言いなりにはならない!」
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