第12話 アフター中間テスト

凪沙さんとの勉強会の甲斐あって週末のテストをなんとか乗り越えた私だったが、本番はここから。


件のテストの方だけど、一年生の最初のテストということもあって、科目は国語、英語、数学の三教科しかなかった。しかし、テストの難易度は中学校の時のそれとは比べ物にならないくらい難しかった。


そしてテスト明け翌週の月曜日は、テストから解放された爽快感とテスト結果が返却される緊張感が入り混じって精神が不安定になる日だ。


自信はあるっちゃある。部活動やアルバイトを特にしていない私にとって、出来栄えの及第点は赤点回避という低いハードルでは満足できない。流石に真ん中より上くらいの成績は欲しいところだ。


あとは凪沙さんが学年トップクラス(おそらく)に勉強ができるのもある。私は彼女と対等な関係になりたい。今はまだ、凪沙さんに頼ってばかりだけど。


いつかは凪沙さんの隣に立って彼女のことを支えてあげたい。今までの恩返しがしたい。日増しに強くなるその想いを実現するためにも、もっと頑張らなくちゃとは思っている。


最近は凪沙さんとミツくん3人で学校に来ている私だけど、今日は2人とも用事があるらしく久々のソロ登校だ。


教室の前で深呼吸を一つついて中に入る。2人はまだ教室に来ていないらしい。席に荷物が置いてあるわけでもないから、まだ学校にもいないかもしれない。


これ以上考えても何も分かりそうもないし、とりあえず腰を落ち着かせる。朝のSHRまではまだ少し時間があるけれど、私のやることは変わらない。


私は前髪が崩れないように気をつけながら机に突っ伏して、タヌキ寝入りを決め込んだ。あくまで朝に弱いだけ。眠いだけ。軽く突かれれば崩れてしまいそうな虚勢をはって時が経つのを待つのだった。


「はるちゃん」


誰かに肩を叩かれている気がする。その声は、凪沙さん?


「ふぁ……」


「はるちゃん、起きて!授業始まっちゃうよ!」


耳元で大声を出されて意識が猛スピードで呼び覚まされる。いつの間に寝てしまったのか私。今なんの時間だ、ろ……


「じゅぎょう……授業!?」


え、そんなに寝てたの私!?急いで上体を起こして時間を確認する。時計は確かに1限開始2分前を指していた。


「朝からおねむさんだね、はるちゃん」


「わぷ」


凪沙さんがポケットからハンカチを取り出して私の口元を拭った。


「よだれ、垂れてたよ」


「え、ちょっと汚いよ!?」


「大丈夫、はるちゃんに汚いところなんてないから」


「そ、そんなことないよ!?」


「それよりも、授業の準備しなくて大丈夫?」


キーンコーン……


「そうだった!」


授業開始のチャイムがなってしまい、私は急いでカバンから教科書などを取り出す。


その間、凪沙さんがハンカチを自分の口元に当てていたのに私が気づくはずもなく……


無情にもテスト返却ラッシュが始まってしまった。


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「お、おわった〜」


「お疲れ様、はるちゃん」


点数に一喜一憂しながらも、なんとか1日を終えた放課後。周りのクラスメートたちが続々と教室を出ていく中、私と手を机の上に伸ばしてとろけていた。そんな私の様子を凪沙さんが頬杖をつきながら見てくる。小さい子供を見守るかのような彼女の表情にむず痒さを覚える。


「で、どうだったのはるちゃん、出来の方は?」


「んーそこそこかな」


凪沙さんには勉強を見てもらった恩があるので、私は彼女に答案用紙を見せた。


「おー頑張ったね。中学校の頃よりいい点数取れてる」


「これでも一応、高校デビューしてますから……」


今ではとってつけたような設定になってしまったかもしれないけど、私は高校デビュー済みだ。何か変わったかと言えば、見た目が多少子綺麗になったくらいだけど。それでも、少しくらいは変わったアピール?目に見える何がか欲しい。


今回のテストの結果は多分真ん中よりは上だろう。中学生の頃は中の下を彷徨っていた私からしたら大きな進歩だ。


「凪紗さんは……相変わらずですね」


うーん、ドヤ顔。3枚の答案用紙をこちらに向けて褒めてほしいオーラを放っている。


「よく頑張りましたね」


テストの後は、いつもこうして凪紗さんの頭を撫でて甘やかしている。普段は犬っぽい彼女だけど、この瞬間だけは猫みたいに甘々になる。


目を閉じて頭を私の手のひらに擦り付けてくるそのしぐさまで猫っぽい。彼女のサラサラな髪の毛が手のひらを撫でる。その触り心地はどこまでも気持ちよくてずっと触っていたくなる。


髪の毛の奥から感じる彼女の体温と過剰にふりまかれる彼女の匂いが合わさって私を酔わせる。


「お!はるかちゃんじゃん!こんな時間まで……相変わらずお熱いですね」


「え、実里ちゃん!」


教室の扉が勢いよく開かれて、私は手を凪紗さんの頭から離した。


凪紗さん無限撫でまわしタイムは、嵐のように現れた実里ちゃんの到来とともに終わりを迎えたかと思われた。


しかし、彼女はまだ物足りないらしい。不満そうな顔をした凪紗さんが、離れた私の手首を掴んで自分の頭に押し付けてくる。


特段拒む理由はない。このまま実里ちゃんと話すとしよう。


「テスト終わったね」


「そうだね、どうだった?」


「聞かないでほしいかも」


「さいですか……」


「そう言うはるかちゃんはどうだった?」


「私は結構よかったよ。凪紗さんのおかげだけどね」


机に雑に置かれた私の答案用紙を指さしながらそう言うと、実里ちゃんは実にオーバーなリアクションを取った。


「えー!あの私とどっこいどっこいだったはるかちゃんが、平均点をとってる!?裏切ったな!」


「私もちょっとは変わったのですよ!」


「変わったのは見た目だけじゃなかったんだね」


ぐいぐい。二人で談笑していると、凪紗さんがさらに頭を押し付けてくる。今日の凪紗さんは相当な構ってちゃんらしい。


「あ……ええとさ、急なんだけど明日空いてる?」


実里ちゃんが凪紗さんをちらっと見て何かを言いかけた気がするけど、変わらず話しかけてくる。


「私は暇だけど、凪紗さんは?」


「はるちゃんが暇なら私も暇」


「私ははるかちゃんに聞いたんだけどね……まあいいや。明日、私がバイトしてるカフェ手伝ってくれないかな?このとおり!」


両手を合わせて頼み込んでくる実里ちゃんと目を合わせたりそらしたりを繰り返しながら、彼女の言葉をゆっくりと飲み込む。


バイト、バイト!?わた、私がバイトデビューですか!?


かくして私、初のバイトとやらをすることになってしまいました!つづく!!


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お読みいただきありがとうございます!


花の理系大学生ゆえ中々続きを書くことができない現状です……


更新待ってますコメントに背中を押されて何とか更新できました。コメントをくださった方、本当にありがとうございます。


これからも週1更新を目標に頑張ります。


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サブヒロインの私がメインヒロインに負けるお話 まるメガネ @mArumegAne1001

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