5.後輩メイドと夕食(おつまみ)

//SE 包丁でトントンと刻む音、開始

//声、正面から、少し離れた位置で

「んー……どうかしましたか、先輩。そんな自分のおうちなのに所在なさげにこちらを向いて」


「調理器具や調味料の位置はあらかた把握しましたので、先輩は気にせずお待ちしていただいてもいいんですよ」


「それとも、よもや変なものを作るのではと警戒しているわけじゃあないですよね? 流石の私も、ご飯を粗末にするような遊び方はしませんからね。まったくもって心外です。ぷんぷん」


//SE 包丁で刻む音、停止

//SE レンジに何かを入れる音


//SE レンジの動作音、開始

//SE 袋を開けて、ごそごそと準備する音


「そういえば、よくよく考えると先輩のおうちで料理するの、初めてですよね。適当に買ってきたものを食べたりとか、外で食べるのとか、そういうのはしたことありましたけど」


「自分の家のものじゃない道具を色々と使うのも、なんだか変な感じです」


「先輩も、他の人が料理しているのがめずらしくて、落ち着かない感じでしょうか」


//SE レンジがチン、と鳴る音

//SE レンジの動作音、停止


「あ、できたみたいですね。ほかのものもあらかた準備できたので、机に並べていきます」


//SE コツ、コツ、と机に皿を置く音

//声、正面から、机越しに対面の位置で

「はい、レンジで作った餃子に、クラッカーにチーズとトマトを置いたもの、スーパーで買ったお惣菜、そして……これです」


//SE ビールのプルタブをカシュ、と開ける音

「我ながら、完璧なメニューですね。惚れ惚れします」


(先輩、絶句)


「……どうしましたか、先輩。何やら不思議そうな顔をして」


「献立のテーマは見ての通り、お酒のつまみです。そして、お酒です。完璧な夜ご飯ですね」


//少し間を置いて、気まずそうに

「……いえ、分かっています。メイドっぽい料理ではないな、と。ですが、今日は宅飲みをしたい気分でして、つい……魔が差しまして」


「ほ、ほら、食べましょうよ。冷めちゃいますし。この餃子とか、美味しそうだなー。ほら、あーん。早く口開けてください。ほら、あーん。あーん!」


(先輩、口に餃子を詰め込まれ、渋々食べる)


//にやりとした声で

「よし。美味しいけど納得がいかない表情、いただきました」


「では私も一口……うん。美味しい。ではここでお酒も投入……」


//SE グビグビとお酒を飲む音


//リラックスしたように

「はー、おいしー」


「昔はこんな苦いものの何が美味しいんだーって思ってましたけど、以外といけるものですねぇ。これも大人になったということでしょうか」


「一説によると、大人になるとビールがおいしく感じるのはストレスで苦みの感受性が下がるから、という話もありますよね。先輩の飲むビールは、さぞ甘美なものなのでしょう」


「ささ、こっちも食べて下さい。クラッカーのクリームチーズとトマト乗せ……正式名称、あるんですかね。この、絶対美味しい王道の組み合わせ」


「食べないなら私が食べちゃいますよ。あむ」


//口に食べ物を入れた状態で

「ん、やっぱりいつ食べてもおいしい。最初にこれを考えた人は間違いなく神ですよ、神」


「独り占めしたいところですが、私は優しいので……いえ、ご主人様の忠実なメイドですので、おわけします。はい、あーん……」


(先輩、差し出されたクラッカーを食べる)


//不意について出たように

「ひう」


(先輩、どうかしたのか問う)


「……い、いえ。指に舌が当たって、つい驚いてしまいまして……」


「先輩、私の先程の声、聞きましたか?  聞きましたね?」


//間を置かず、わざとらしく

「うう、恥ずかしい。一生の不覚です。お嫁に行けません」


//切り替えて、覚悟を決めたようにキリッと

「かくなる上は……先輩、飲んでください。飲んで早々に忘れてください」


//少し駄々をこねるように、酔っ払いのダルがらみっぽく

「ほら、飲んで下さい、先輩。大人しくのーめー!」

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