2.朝チュン(昼)


//右から

「じー」


「じーーーー」


「じーーーーーーーー」


//SE 先輩が掛け布団をもぞりと動かす音


//フラットな声色で、当然のように

「あ……先輩。起きましたね。おはようございます、もうお昼も近いですけど」


//少し間を置いて

「……むむむ、先輩。不思議そうな顔ですね。私がどうして横で寝ているのか、と。顔にそう書いてあります」


//怪訝そうに

「……もしかして、寝ぼけていますか? 先輩、寝起き弱いんですね」


「昨日も疲れていたのか、すぐ寝てしまったんですから。肉体的疲労だけでなく、精神的な疲労も気にしないといけないんですよ。やれやれな先輩です」


「いいですか、私がここで寝ているのは……先輩がいいと言ったからです」


(先輩、自分が言ったのか問う)


//少し間を置いて

//やや大仰に

「ええ、はい、言いましたとも。俺の隣に来いと、それはもう情熱的に」


(先輩、絶対にそれは嘘だろと疑わしい視線を向ける)


//間を置いて

「……はい、嘘です。いえ、嘘は半分だけです。ベッドを使っていいといったのは、本当ですからね」


//わざとらしく物語るように

「遡ること昨晩のことです」


「私を部屋に連れ込んだ先輩が、かわいそうな私を放置してお風呂に入り、かわいい私を放置してお風呂から出てすぐベッドに倒れていたあとのこと」


「私としては、部屋の隅のダンボール一箱ぶんくらいの土地の所有権を認めていただければ、体育座りですやすやと眠るつもりだったのですが……」


「そう、ベッドの上で倒れている先輩にお話したところ、ベッドで眠ればいいとムニャムニャと提案されまして」


//間を置かずに

「ですので、同衾、させて頂いております」


(先輩、その着ている服はメイド服だよね、と問う)


//少し考えるように間を置いて

「……はい。メイド服、着てますよ。昨日に引き続き」


(先輩、無言の訴え)


//間を置いて、

//根負けしたように

「……鋭いですね。先輩。きっと探偵に向いていますよ」


「そうです、メイド服を着たまま人は眠りにつくことはないでしょう。というか、私もいやです、せっかくの一張羅に、皺がつくのは、望ましくありません」


「先輩が寝ている間に着替えて眠り、先輩が寝ている間に起きてメイド服を着ました」


//何食わぬ声で

「なので、メイド服の後輩が先輩の寝顔を観察していたのはですね、単に私の趣味です。いわば先輩観察です」


//自信ありげに

「それと、起きたときにメイド服のかわいい後輩がいるのは先輩も嬉しいかなという、ささやかなサービス精神もあります」


(先輩、なんだ、夢か……と布団をかぶる)


//SE 掛け布団をかぶる音


//掛け布団越しなので、少しくぐもった音で

「……あ、掛け布団で隠れないでください。なんだ夢か、じゃないですってー」


「……いいですよ、先輩。先輩がその気なら、私にも考えというものがありますから」


//SE 掛け布団の中に後輩が入ってくる音


//以降、眠気を妨げないようにと少しだけ小声で

//少し愉快げに

「剥がしてがだめなら、入ってしまえ作戦です。我ながら名案ですね」


//間を置いて、少し気まずそうに

「……あの、何も言ってくれないと、私もボケ甲斐がないのですが」


//間を置いて、少し焦ったように

「……あのあの、まさか本当にこのまま二度寝する気じゃないですよね? 同じ布団に入っている後輩を置いて? もうお昼ですよ?」


//諦めたように

「微動だにしない……はぁ、そんなに疲れてるんですか。本当、仕方ない先輩ですね」


「なら優しい私が先輩に、子守歌でも歌って差し上げましょう」


//はっと気づいたように

「……や、そうだ、私、音痴なので眠れるような歌は歌えないんでした。妹が子供の頃に子守歌を歌った際、二度と歌わないようにと釘を刺されているのでした。あぶない、あぶない」


//少し間を置いて、先輩を観察してから

「……見てると本当に寝ちゃいそうですね。うとうとの先輩、見てるだけで面白いです」


//自己完結するように続けて話す

「そうですね……人肌があると、安心すると言いますし。少し、近づきますね。失礼します」


//SE 髪を撫でる音


「なでなで……なでなで……なでなでなでー」


「んー、ちゃんと髪のお手入れしてますか? 見ないうちに、枝毛が多くなってる気がします」


//愉快げに

「でも、そのぶんきっと頑張ってるんですよね。えらいですねー」


「まあ私としては、頑張りすぎないでそのぶん、私に連絡とかして、構ってほしくはありますけど」


「……ん、ふふ。ふふふふふ……先輩、されるがままですね。ちょっとウケます」


「こんなに近くにいるのに、あまり反応がないのは少し尺ですけど」


//優しい声で

「ほーら、先輩。これは先輩の言うとおり、夢なんです」


「夢の中ですから、先輩を傷つけるものも、面倒なことを頼むことも、何もありません」


「なので安心して眠っていんですよー。よしよーし。よしよーし」


//SE 髪を撫でる音でフェードアウト

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