第12話

「お疲れ様。」


 引っ越し作業を終え、新しいテーブルに二杯の紅茶を運ぶライリー。

 お疲れ様といっても、作業はほとんど業者に頼んだし、私は近場からの引っ越しなのでそんなに疲れてはいないが、ありがたく頂戴する。


「ありがとうございます。」


「もう夜になっちゃったね。

 明日も休みだよね?」


「はい。」


 明日の予定を聞かれてドキドキする。

 初めて一緒に夜を越すからだ。

 ライリーの行動力は偏りを見せており、お泊りなどを一回もすることなく引っ越しの計画だけがどんどん進んでしまった。

 そういうことをする前に結婚を考えるのは素敵だけど、現実的にどうなんだろう・・・。

 さすがに一緒のベッドで寝るならする・・・のかな。

 もうそのことしか考えられなくなっていた。


「じゃあゆっくり寝れるね。」


 ライリーの言葉一つ一つの意味を考えドキドキしてしまう。

 この状況で考えないなんて無理!


 お風呂を済ませ寝室に向かう。


 とりあえずお風呂は別々っと・・・

 すべての行動を考察してしまう。

 ライリーは最初のお風呂を譲ってくれた。


 しばらく寝室で状況整理をしていると、ライリーが寝室に入ってきた。


 うっ!!!

 これは・・・・!

 心臓に悪い。

 ライリーのパジャマ姿を拝んでしまった。

 ライリーの周りが光輝いているように見える。

 無理じゃんこんなの。

 一緒に住むなんて心臓持たないかも。


 さっきまで危惧していたこととは別のことで頭がいっぱいになった。

 余計苦しくはなったが、恋人としてどうふるまうべきかを考えるより、ただのファンの気持ちになった今の方が心地よい。


 私だけじゃなく、ライリーも悶え苦しんでいるようだった。


 一緒にベッドに入る。


「はじめて一緒に寝るね。」

 ライリーが言う。


 大きいベッドを買ったので、一人一人のスペースは十分だ。

 そのスペースを存分に使っている状況。


「はい。

 ちょっとドキドキしちゃいます。」


「俺も」

ライリーは笑いながら言った。


 かわいい。

 セットしてない髪かわいいな。

 いつも大人っぽいライリーの隙のある姿にキュンとしてしまう。


 ふと髪に手を伸ばしてしまった。

 ライリーは驚いたのか、一瞬ビクッとするがすぐに受け入れる。


「あっ、すみません。

 つい・・・。」

 そう言って手を戻した。


 しかし、ライリーに手を引かれる。


「ごめん、びっくりしちゃっただけ。

 触って。」


 再びライリーの髪を触る。

 さらさらでふわふわした質感だ。

 髪だけでなく頭を撫でてみる。

 大人しく撫でられているライリーを見て愛おしい気持ちが大きくなる。


「可愛い。」


「俺も触らせて。」


 手を捕まれ撫でるのを制止され、ライリーの手が頭に触れる。

 上からくる大きな手に内心ビクっとしたが、さっきのライリーもこんな気持ちだったのかなと思い余計可愛く思えた。


 優しく触れる手に安心する。

 愛おしい気持ちが溢れ、ライリーの腕の中に納まるよう移動した。


 ライリーは思いがけなかったのか、顔を真っ赤にしながら、できるだけ触れないようお手上げのポーズをしていた。


「ハグしてください。」

 照れながら言う。

 言わないとしてくれなそうだ。


 ライリーは恐る恐る手を回す。

 ハグまではいつもしてるんだけどな、と思ったが寝転がりながらのハグは初めてだったかもしれない。

 たしかに、普段よりだいぶ密着度が高い。


「今日寝れないかも・・・」

 ライリーが情けない声で言う。


「私もです。」

 笑いながら言った。


 この様子だとそういうことは当分先だなと思い少し安心した。

 ライリーの反応があまりにも愛おしい。

 今の関係をもう少し続けたい。


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