第8話
9月
ライリーと予定を合わせ、食事に行くことにした。
一瞬欲が出て映画デートなども考えたが、恋人っぽすぎて想像しただけで恥ずかしくなったのでやめた。
こちら側に来てくれると言って聞かないので、私の家の方のレストラン周辺に向かう。
2度目の対面。
初めてではないとは言え、緊張は免れられない。
緊張する・・・。
推しと会うんだ・・・。
推しと待ち合わせできる世界線って!?
待ち合わせ30分前。
待たせるわけにはいかないので早めに到着した。
が、彼の姿は既にあった。
1時間前に来ればよかった・・・。
「お待たせしました!」
「まだ30分前だけどね」
無邪気な笑顔を見せる。
「先に着いておきたかったんですけど・・・」
「俺もだよ。
行こっか。」
待ち合わせイベントを乗り切ったところで、改めて思う。
かっこいい!!
優しい上に見た目が大優勝だ。
パーティーの時のフォーマルなスーツは最高に似合っていて、日本人には到達できない域まで行ってる感じだった。
それに負けず劣らず今日のカジュアルなスタイルも最高だ。
そんなことを考えているうちに、レストランに到着した。
***
案内された席につく。
職場のメンバーとよく来る店で、よく知っているのでここにした。
今回はこちらに来てもらうので、失敗があってはいけない。
「おしゃれな店だね。
普段Uberしかしないから、お店知ってるのすごいな~って思っちゃうよ。」
「私も自発的に行くことはないんですけど、本業が会社員なものでたまに飲み会とか連れて行かれるんです――ブフォッッ!!」
飲みかけていたコーヒーを吹き出しそうになる。
隣の隣の席、相沢主任と黒川だ・・・。
そんなに仲良かったのあの二人・・・!
こっちを睨んでいる。
あの人たちと来てる店にするべきじゃなかったか・・・
「ど、どうしたの!?」
ライリーは慌てて、おしぼりを渡してくれる。
「大丈夫です・・・
ありがとうございます。」
痺れを切らしたのか、黒川がこちらに向かってくる。
「こんにちは。」
珍しく笑顔だ。
余所行き用スマイルだろう。
怖い・・・。
「こんにちは・・・」
ライリーは誰??と顔に書いたまま挨拶を返す。
「彼女と同じ職場の者です。
ご一緒していいですか?」
有無を言わせない笑顔でゴリ押す。
黒川の単独行だったらしいが、相沢主任もこちらの席に移動した。
ここは基本女性のお客さんばかりだ。
男性だけで来る人はそうおらず、もともと注目されていたのもあるだろう。
相沢主任と黒川がこちらに来たことでイケメン3人+私という形になり周りの視線を集めている。
「なんでこっち来るの!?」
隣に座った黒川に小声で言う。
「なんでもいいだろ。」
いつもどおり無愛想な黒川に戻っていた。
さっきの笑顔はどこに行ったんだ。
相沢主任は困ったような顔をしている。
「すみません。
うちの者が・・・。」
ライリーの隣に座らざるを得ず、とりあえず謝る。
「い、いえ・・・」
「どういう関係なの」
黒川は猫を被るのをやめたのか、いつもの調子でライリーに問いかける。
「黒川には関係ないでしょ!!」
私は困り果て、会話に割り込む。
「関係ある」
黒川は断言する。
意味がわからない。
関係あるわけないだろう。
同僚ってだけで人の人間関係に口を出すな。
「橋本が好きなんだ」
―――!!??
一瞬場が凍り付く。
相沢主任は知っていたのか、やってしまった・・・と言いたげな表情だ。
そうだったの!?
いや、信じられないけど・・・
そうだったにしても今言わなくて良くない!?
「好きだから、他の人と二人でご飯行ってるの見て我慢できなくなった。
ごめん。」
珍しく素直に謝った。
本気なのか・・・。
それならちゃんと答えなきゃ。
「この方とは付き合ってるとかではないよ。
それで、あの、返事を求められてるのかはわからないけど、ごめん。
黒川のことは仕事仲間として大切にしたい。
ていうか、今まで好意とか感じたことなかったんだけど・・・」
相沢主任がフォローに入ってくる。
この人は黒川の味方か。
「黒川、橋本さんとはよく喋ったし、橋本さんと一緒の飲み会にだけは参加してたんだよ。
だから、前から好きだったことは認めてあげて。」
いつから・・・
全然わからない。
ていうか、飲み会も相沢主任がいる飲み会には参加してるのかと思っていた。
今日二人でランチをしてるのを見て二人の仲が私の中で確固たるものになったけど違ったのか・・・。
「俺からも、言わせてください。」
ライリーが意を決したように言う。
「付き合ってはないですけど、俺は冴ちゃんのことが好きです。
遊びで一緒にいるってわけではないので安心してください。」
―――!!!!
どどどどういう好き、ですか??!!
この場で言う好きってそういう意味であってますか??
***
私のライリーへの態度が表に出ちゃっていただろうか。
黒川は失恋を確信したのか、魂が出てしまったかのような様子に変わり相沢主任がその屍を引き取るという形になった。
「あの・・・」
屍をつくった自覚はあるが、推しの前では当たり前の言動だ。
推しの前に不誠実でいるわけにはいかないし、やっぱり推しが絶対正義である。
その推しにおそらく好きと言われ、照れ、もといニヤケ顔を隠しきれない。
「いつか言おうと思ってたんだ。
まだ早いと思ってたんだけど、冴ちゃんの同僚の人なら誠実に対応しないといけないでしょ?」
ライリーも照れている。
「ごめん、いい大人が。
知ってくれてると思うけど全然恋愛したことなくて。
すべての工程が未経験というか・・。」
照れながらもオタクの思考は止まらない。
私がはじめて、ということか・・・。
推しの初めてをいただけるなんて何という光栄。
ライリーは海外に住んでいた10代の頃、アジア人との混血ということで差別されてきたらしい。
それで家に引きこもるようになり、ゲームだけして過ごしていたとか。
結局、それが今の仕事に生きているんだから人生なにがあるかわからないものだ。
私は、そんな過去があるからこそ今のライリーがあると思っているから、その環境にも感謝したいという最低な考えではあるが、ライリーも過去があるから今の自分があるというようなことを過去の配信で言っていた。
実は、恋愛経験が全くないイケメンというポイントにも凄く惹かれている。
私はユニコーンなのかもしれない。(※推しに処女性を求めること)
本人にこんなことを説明することはできないが、リアルの知り合いになってしまった以上せめて経験値のなさを悔やむことがないようにフォローしたいと思う。
と、ここまでがオタク特有の心の中の早口である。
正直興奮している。
ライリーは姿勢を正して言う。
「好き、なので、付き合ってほしいです。」
「よろしくお願いしますっ!」
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