第6話

 ―――某土曜日、如月邸


「冴ちゃんって普通に仕事もしてるんだね。」


 あれから連絡をとり、日程等を決めた。

 私の配信を見てくれたようで、仕事をしていることも含め諸々のプロフィールが明るみになった。

「はい。

 日程配慮していただきありがとうございます。」

 仕事を続けていることに悪い印象はもたれていないようで安心した。


「仕事もして、配信もしてるなんてすごいね。

 なかなかできないよ。」

 優しそうな笑顔で言った。


 会って打ち合わせをして、どうせならそのままオフコラボがしたいとのことだったので、場所は如月さんの家になった。

 いきなり家に行くのもどうかと思ったが、家が仕事場だし場所を変える手間を取らせるわけにもいかない。


「ありがとうございます。

 配信に長時間割いたりはできないのがもどかしいですけどね。」


「今日の配信どうする?

 ゲーム配信に憧れはあるって言ってたよね。

 俺が教えながらって形で配信するのはどうかな?」


「やりたいです!」

 なんという贅沢。

 コラボできるだけで贅沢なのに、直々にゲームを教えてもらえるとは。


***


 コラボ配信は無事終わり、ゲーム配信の楽しさを知った。

 今後少しずつやっていけたらいいな。


「楽しかったね!」

 心底楽しそうだ。

 心から配信が好きなんだな。

 なんか可愛いかも。

 でもなんか距離が近いような・・・?


「はい!

 本当にありがとうございました!」


「夜ご飯一緒に食べよ?

 俺つくるから。」


「・・・。」

 ごちそうになって良いのだろうか。

 場所を移動させるわけにはいかないと思って家まで来たが、これではもてなされてしまう。


「遠慮してる?

 家まで来てもらったし、おもてなしさせてよ。」


「いただきます・・・。」

 イケメンすぎて怖くなってきた。


「料理すきなんだ~

 家から出なくていい作業は基本好きだよ。」


 雑談をしながら、ご飯をつくる。

 ちゃんと材料あるのすごいな。

 買ってきてくれてたとか・・・?


 さすがに、作ってもらってる間なにもしないわけにはいかないので一緒に作ることにした。


「一緒に料理できる人いいな。

 楽しい。」

 如月はルンルンで料理を進める。


「料理楽しいですよね。

 野菜切るのとか無心になれて好きです」


「わかる。

 普段料理しない人としか関わりないから共感できるの嬉しい。

 こんな彼女がいたらいいのに。」

 如月が手を止めこちらを見ながら言ってくる。


 おやおや?

 どう反応したらいいんだこれ。


「もうすることないから座ってて~。」

 考える間は与えられなかった。


「は、はい。」


 意味ありげな言動されると上手く返せない。


 お洒落な料理達が並ぶ。

 考えていたことも忘れ、興奮してしまった。

「すごいっ!

 おいしそうです!」


「めしあがれ」


「いただきます!」

おいしい!

 そこら辺のお店よりおいしい。

 胃袋をつかまれるとはこのことか。


「おいしいです!!」


「よかった。

 いつでも食べに来てほしいな。」


 イケメンすぎるって。

 私じゃなかったら落ちてるよ。


***


「ごちそうさまでした。」


「食後のコーヒーでもどうですか?」

 如月が言う。


 もう怖いよこの人。

 至れり尽くせりだ。

 幸せで飛びそう。


「いただいてもいいですか?」

 もう遠慮はやめることにした。


「おっけ~」

 そのほうが如月も嬉しいようだ。

 ルンルンでコーヒーを入れてくれている。


「普段ずっと一人でいるから、家に人がいるの嬉しいんだよね。

 世話焼かせてね。」

 そういいながら、コーヒーを置いた。


「ありがとうございます。

 あんまり人を呼んだりしないんですか?」


「うん。

 仕事以外の人とは絡みないし、仕事の人ともオンラインで関わることが多いから。」


「そうなんですね。

 たしかに、かなり長時間配信されてますもんね。」


「ゲーム始めるとなかなかやめられなくてね。

 視聴者さんも喜んでくれてるし、ほんと天職だよ。」


「幸せですね。

 好きなことを極められるってすごいです。」


「冴ちゃんも配信に専念すればいいのに。

 生活できないなら養うよ。」


「!!」

 思いっきり照れてしまった。

 こういうのなんだって!私のトーク力!

 うまく返したいのに・・・真に受けてるみたいじゃん。


「ごめんごめん

 困るよね。

 

 でも、本当に思ってて。

 好きになっちゃったんだ。

 言うの早すぎかとも思ったんだけど、冴ちゃん昼の仕事と配信でほとんど会う時間とれないし、あんまりのろのろしてると取られちゃいそうだったから。」


 真剣な、少し切羽詰まったような口調でいった。


 こんな人でも必死になったりするんだ・・・

 そんな失礼なことを思いながらも、まだ信じられない。


 断らなきゃ。


「ごめんなさい。

 私、好きな人がいて。

 家に来たのは良くなかったかもしれません。ごめんなさい。」


 好きな人、というか推しだが。

 ガチ恋というわけでもないけど、

 でも、他の人にかまっていられないくらい熱中はしている。


 如月の表情は、悲しそうなものに変わる。


「そっか。

 答えてくれてありがとね。

 思わせぶりな態度とらないのも素敵だよ。


 ・・・好きな人ってもしかしてライリーかな?」


「はい。」

 お見通しか。


 推しがいなかったらすぐ付き合ってただろうけど・・・

 推しのいない世界なんて想像できないし。

 ごめんなさい。


 次のコラボ配信の約束をして、今日はお暇することにした。




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