第3話

「パーティー・・・?

 しかもStreamerからだ・・・。」


 ここで冒頭に戻る。


 普段他の配信者と交流がなく、参加しても一人隅の方で過ごすことになると思い悩みはしたが思い切って参加することにした。

 憧れの彼がいても来るのはバーチャルのキャラクターの方じゃなくて本人だからどの人なのかはわからないと思うが、せめて同じ空気を吸いたい!

 何か起こって、どの人が彼、ということがわかって本人を拝めたら尚良し。

 一人で過ごすくらいなんてことない。

 参加しよう!


***


 パーティー当日。


 プライベートで何のイベントがあろうとOLは普段通り出社しなければならない。

 時間的に休みをとるほどでもないし、なんなら遅れて参加してもOKということだったので仕事優先だ。


「おはようございまーす。」


「おはよう。」

「うす。」


 私より少し先輩の相沢主任と、同期の黒川が返す。

 今はこの3人で同じ案件に取り組んでおり、席が近い。

 案件次第でデスクの位置が決まることになっており、1つの案件は年単位で続くものなので、必然的によく話すようになる。


「金曜だけど飲み行く?」

 相沢主任が私たちに問いかけた。


「今日は予定があって行けません。

 来週行きましょ!」

 行きたくないと思われたくないので、来週の約束を取り付ける。


「おーいいよ、何かあるの?」


「友達と飲み行きます!」

 うちの会社では副業は良い顔をされない。

 禁止こそされてないものの、OKを謳っているわけではない。

 仲が良いとは言え、上司だ。

 配信者をしていることだけは秘密にしている。


「なんか隠してそう」

 黒川が独り言のような口調で言った。

 物静かで口数は多くないが、思ったことは口にする。

 このメンバーのことは良く思っているのだろう。

 飲み会に参加するタイプではなさそうだが、相沢主任に誘われれば毎回くる。

 私には生意気で無愛想だが憎めない同期だ。


「隠してないよー

 隠してたとしても黒川に言う義理ないもん」


「ふーん」


 可愛いやつめ、そんなに気になるか。


 黒川も相沢主任も顔が良い。

 プログラマ、もといSEという職業柄、男性が多い。

 そして、私も含め異性っ気がない人間がとても多い。

 恋愛関係に発展することはないが、顔が良い異性が近くにいるというのは悪い気はしないであろう?


 お局的な存在がいないというのも職場環境としては最高だ。

 前職も仕事内容は同じであったが、この職業にしては珍しくお局様がいてメンタルをやられ、転職した。

 その経験から、今の職場を手放すのが惜しく、動画配信でも食べていけるが本業も続けている。


***


 ――17時半、終業。


「お先に失礼します!」

 会社の更衣室で着替えと簡単なヘアセットを済ませ会場に向かう。

 18時開場だが、付くのは18時半頃になりそうだ。


 緊張する。

 粗相のないようにとにかく静かにしていよう。


 配信者のイベントに参加するのは初めてだ。

 初めて降りる駅へ向かうというのに景色を見る余裕などあるはずもなく、着かなければいいなどという思いも裏腹にあっという間に到着してしまった。


 受付を済ませ、会場へ入った。

 少しの間、参加者の視線を集めることになってしまったが仕方ない。

 こちらを見て何やら話をしている人もいるような気がするがこれも仕方ないだろう。


 会場を見渡すと、一番多く人が集まっているグループがあった。

 おそらくあのグループが主催事務所所属のバーチャルライバー達だろう。

 交流パーティーとは言っても、基本は顔見知りと集まるよね。


 顔見知りなどいないので、飲み物をもらったり無駄に飲む動作をしたり完全にぼっちの挙動ではあったが、なんとかその場に合うよう繕った。


「こんばんは、はじめめして。

 ライリー《Riley》という名前で動画配信をしてます!」


――――!!!!


「!!!!」


「いきなりすみません。

 お話がしたくて。SAEさんですよね?」


!!!!!

「はっ!すみません。

 冴と申します!

 いつも配信見てます!」


 推しだ。

 推しが目の前にいる。

 しかも、イケメンだ。

 というかバーチャルのイラストにかなり近い。

 少し長めの綺麗なブロンドヘア。

 ヴァイオレットの瞳。

 身長は180センチを超えるだろう。

 公式プロフィールだと185センチになっていた。

 多分ほぼ盛ってないな、これは。


 ――とオタク特有の早口を心の中で唱え、あることに気づく。


 認知されている?!

 バーチャルのキャラさえ知っていれば、私がその中身であることはわかるだろう。

 なぜなら、キャラデザをできるだけ私と近づけてくれと依頼したのだ。

 推しと同じことがしたくてバーチャルライバーとして配信することにしただけで、別に顔を出したくないとかそういった理由があるわけではなかった。

 名前もそのまま使っているくらいだ。そういうことである。


 でも・・・

 まず配信を見て認知してないことには、私がその中身だということはわからないはずだよね!?

 誰かに聞いたとかもないと思うし。


 嬉しすぎて昇天しそう・・・

 ここに墓をつくろう・・・・


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