第17話 光る石.1

「快晴と七海は今年、山車だし引くのかー?」


 しばらく、食べながらたあいのない会話が続いたあとに、お祭りの話になった。

 お祭りでは星崎神社の縁起書に残る『七星』にちなんで、七台の山車が町内はもとより国道を通行止めにしてもよおされる。その絢爛豪華けんらんごうかな彫刻が施された山車は、県外からも一目見ようと見物客がやってくるほどだ。


「やるやる」快晴が口にしたあとに、私は、まだ未定~、とだけパピヨンに答える。

 悪気がないのはわかるが、思考が現実逃避してる今は、勉強の話は避けたかった。パピヨンも若かれし頃は山車を引いてたことから、この話題は長引くことが予想される。

 他の話はないものかと考えを巡らせる。そのときだ、救われたのは。


「頑張れ! 快晴!」


 ここで楽園の老婆の登場だ。


「いよっ! 快晴っ」マリアの突拍子のない言葉に、快晴は、任せて下さい! と皆に腕っぷしを見せびらかしている。


 ここぞとばかりのタイミングだった。さすが伊達に長生きしてないわ~、と私は上から目線で褒め称え、安堵あんどしてからラーメンをすする。

 一気に魚介だしと豚骨を組み合わせた独特の風味が、鼻から頭へとに抜けていくと、思わず声が漏れた。


「おいひぃ~~」


 東海地区のラーメンといえばこれだろう。それに加えて、このセットで付いてくるデザートだ。

 白玉ぜんざいの上にのったソフトクリームを、私が上品に口へと運ぶと、甘すぎないさっぱりしたミルク味が口の中でとろけた。はあああ、このまま昇天しそうだった。

 するとパピヨンと目が合った。驚いた表情で見ている。


「はあー? 七海はデザートを先に食べるのかー?」


 真面目な顔で言うから少しおかしくなった。

「アイス溶けちゃうじゃん。てか、この塩味と甘さ加減が絶妙なんだって」

私はソフトクリームを一口入れる。

「パピちゃんもやってみたらー? おいしいかもよー」

 にやにや茶化すマリアに、パピヨンは、はあー? しか言わない。

「今、流行ってるんだって!」

 何かを知った風のお母さんは、ちょっとまってよー、と得意気にスマホをタップし始めた。

「はあー? そんなの目立ちたいだけだろー?」とパピヨン。

 マリアは、炎上? 炎上でしょ? と皆をじろじろと見て目を合わせようとしているけど、私が思うに、おそらく微妙に意味合いが違う。皆の素振りからもそう読み解けた。

 慣れた手つきで操作するお母さんは、その辺の噂好きのおばちゃんにしか見えなかった。

「あったあった!」

 皆、お母さんに注目する。

「ソフトクリームとラーメンは不思議とマッチする味わい。ソウルフード奇跡のコラボ。ラーメンにソフトクリームを入れると激ウマ説は本当だった。だってぇー」

 まるで雑学王にでもなったかのような振る舞いだった。

「ラーメン台無しじゃーん」

 パピヨンは否定するも、「マリアちゃんもやってみようかしら」「おれも密かに美味いって思ってた派」

 肯定的なマリアと快晴に、

「はあー?」

 と、パピヨンは眉を寄せる

 そんな不満顔のパピヨンにお母さんは、まだある! とスマホちらっと見せた。

 ちょっと待って、と熱心に操作している。今度はただのお節介ばばあに見えてきた。

 そんなコントをよそに、私はとんこつ特有のクリーミーで白濁したスープを一口含み、ソフトクリームを一口運ぶ。

 ……おいしーー。やっぱこれ考えた人、天才だわ。


「これこれ見てっ!」


 お母さんは、ほらほら、と身を乗りだし皆にスマホの画面を見せる。

「もっとすごい人いるって!」


 天才を超える天才……


 皆、言われるままに覗き込んだ。

 え、何これ? 画面にはラーメンの器の中にソフトクリームが真っ逆さまに突き刺さっていた。

 芸術? アートというべきか……

 画面からは何ら迷いは感じられなかった。激しくロケットがラーメンにズドン。

 コーンの部分もラーメンと一緒に食べるのだろうか?

 私はサクサク食したい。絶対。こんなのなんだかぞんざいだと思った。

 これには満場一致で、「はあー?」となる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る