第13話 曇りガラスのヒロイン.2
古ぼけた家が並ぶ住宅路を抜けると四車線ある国道に出た。
「ラッキー。今日、道すいてるー」
「夏休みだから皆んな遠出してるんじゃん?」
子供のようにはしゃぐお母さんにつられて、快晴の声もどことなく弾んでいるように感じた。
「これだけ暑い日が続くと海行きたいわねー」
「おれは山行きたいわー」
「山かー。パピちゃんに連れてってもらったキャンプ場ひさびさ行きたいわね~。パピちゃんは今、車ないからダメだけど」
「たしかに! おれ
「違うって。
まるでお笑い芸人みたいなタイミングだった。——すぐに人の揚げ足をとる、この人は。
どうでもいい間違いを指摘ばかりして、限りある時間を人様のために浪費する偽善者。
快晴はおおかた、やなは
「ほんと今日空いてる~。もう着いちゃいそう」
「日頃の行いがいいからじゃん?」
よく言うわ。あんたらのせいで、私がどれだけ迷惑を
くそ。
次から次へと嫌な言葉が出てきた。ぐちぐちぐちぐち愚痴ばかりぼやいていたら、なんだか窓ガラスに映る自分が徐々に薄くなっていく気がした。
バッタ。てんとう虫。蜂にイナゴ。あれはコオロギ。
——あれはいつかの踏みつぶされた蟻……
行き交う車は皆、冷たく感情のない虫けらにしか見えなかった。
ふたたび車が急発進してスマホが落下しても、またどうせ落ちるだろ、と
目の前の自分は情けないほど曇った表情を浮かべている。ただただひたすら勉強の日々。私の心は梅雨空のままだった。
この交通量なら帰りも早いかもな……
耳に装置をしたイヤホンから聞こえる英語の音声は、何も役目を果たしていなかった。
私はすでに帰りの算段を立てている。
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