第12話 曇りガラスのヒロイン.1
あれから魔女の猫は二日おき程度の間隔でやってきた。相変わらず距離感は触れるか触れないか位の絶妙な間隔で。
「なんか言いたいことあるん?」
窓の外から見つめる魔女の猫に問うけど、ミャオと言うだけ。
「あんたは呑気でいいね」
全くぶれない視線。窓から身を乗り出して撫でてやろうとしたけど、ミャオ鳴いて、さっさと逃げて行く。
未だに関係値の変化はなかった。
「七ーー行くわよーー」
下から呼ばれ、急いで階段を下りて行くと、快晴が玄関前の廊下で立っていた。「あれ、行かないん?」
訊くと、快晴は、あれあれ、と首を向ける。リビングに目をやると、お母さんがどったんばったんと動き回っていた。
またか、と私は小さく声をもれた。
この調子だと準備にあと十五分はかかる。ここで快晴と並んで待つのも微妙だし、お母さんのとばっちりを食らうのもごめんだ。「先出てるわ」
外で待つことにした。
今日は車でショッピングモールへ行くらしい。車は中二階の和室の下がビルトインガレージになっていて、そこにある。
新車で購入した軽自動車のワンボックスカー。もう十年以上経つだろうか。お母さんは、そろそろ大きい車に買い替えたいわね、と乗るたびに言っている。
「ちょっと待ってて、すぐエアコンつけるから」
「母さんフルパワーフルパワー」
「これでマックスー。そろそろ買い替えかしらね~」
車内は
私は運転席裏に刺さっていた、うちわを手にして扇ぐ。そしてプリントされた家電量販店の名前と地域のゆるキャラみたいなウサギを尻目に考える。
——今日の車内は
パーフェクトではないけれど綺麗にしようと試みた形跡があるうえに、心なしか空気も澄んでいた。
「ダメだ~。ひとまず窓全開にするわよー」
お母さんの服は小綺麗にまとまっている。「母さん母さん! 開けたとこで変わんないって外も暑すぎだから」
快晴からは寝ぼけた感じもなかった。
「しょーがない。閉めて我慢するかー」
お母さんは慌ててボタンを押して全部の窓を閉めた。髪の毛の緩いウェーブに少し落ち着いた髪色。これは美容院に行ったと思われる。
「七ー。暑かったら後ろ、うちわあるからねー」
ルームミラーのお母さんと目が合って、私はうちわを上げ、うんうん、とうなずく。メイクが濃いのはただ単に元美容部員のなごりだろうけど。
「あーごめーん」
私がジーンズのポケットからスマホを出してメールを確認しようとしたときだった。——がたん、と一瞬、体が前のめりになった。
「ごめんごめん、また早かったわね~。もういいー? 出発するわよ~?」
私は思わず舌打ちをした。シートベルト着用前に勢いよく発進。そして急ブレーキからの急発進。これもいつものお約束で、この人はきっと死ぬまでこうなんだと思う。
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