第10話 属性は完全に闇となる.1

「なにーこれ可愛いー」「ロザリんの新曲聴いた?」「昨日の生配信見逃したー」「テストやべー」「夏休みどこ行くー?」


 陽気なせいか脳みそが、ぼおーっとする。私は教室に戻ってからも余韻よいんに浸っていた。

 窓際の一番後ろの席は、漫画やドラマで主役が座るイメージからか、圧倒的人気の主人公席と私は認識していた。

 しかしこの席は罪だとも思っていた。

 何故なら、妄想に一度ふけてしまうと、なかなか現実世界に戻ってこれないからだ。私は席に座り、ガラスに映るヒロインを見つめている。


 チャイムが鳴っても現実半分だった。

 それでも五限目のテスト返却は淡々と始まった——

「星宮さん」

 先生に名前を呼ばれるが、まだ主人公感は拭えていなかった。平然を装い答案用紙を受け取り席に戻る。

 手にした際、九の数字は確認した。おそらく九十点台。一番苦手の国語でこの数字なら成果有りだ。安堵あんちょ感から、すでに帰宅した後で、何をしてくつろぐか、手段を考えている。

 限られた時間で全てを満たす方法。ひさびさ韓ドラ観よっかな、と思った。

 席に着き、得意げに点数を確認する。


 ……

 ……


 ん?


 目、腐ったか?

 自分の目を疑った。

 目を素早くこするけど変化はなかった。

 これは現実か?

 答案用紙を見返す。何度も数字を確認した。

 何だこれは。何かがおかしい。

 書き忘れている訳でもなく、解答欄がずれている訳でもない。

 私の目には四十九としか見えなかった。

 何度、見返しても四十九。

 名前も星宮七海で間違いない。四十九点。

 そう四十九点だった。

 何だこれ。

 最悪だ。

 こんな点数初めてだ。

 何が主人公だよ。

 これじゃ悲劇のヒロインだ。

 私は馬鹿か。現実逃避してる場合か。何してるんだ。あんなに頑張ったのに、四十九点なんて……


 何かプッチと切れた気がした。


 辺りが真っ白で倒れそうだ。


「……」


 思わず出た言葉。いや、出ていない。

 志望する高校は県内一、二。


 やばい。

 私は一体何をしている。


 ——カッカッカッカ……


 黒板の音、先生の声。全く耳に入ってこなかった。

 鼓膜の遠くの方で、キーンとだけしてる。

 淡々した解説が更にむなしくさせる。


 もう、どうでもいいよ……

 何も考えたくない……


 私の属性は完全に闇となった。

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