第7話 猫.4

 何だろ? 水滴のキラキラではなくて、別の何かだ。異物が紛れ込んだような、何か。

 でも、時間が気がかりで、その辺の小鳥かなと、強引に記憶に刷り込ませスマホを手にする。でも——

 やっぱり気になった。

 結局、外を見た。

 その瞬間、そこの色彩には似つかわしくない物体が、すぐ目にとまる。


 黒猫。


 それは木の幹にひょこんとつかまって異様な雰囲気をかもし出していた。

 猫は、ただただこちらを直視している。私に興味があるのだろうか。

 ずっと見られると目を逸らしたくなくなる。この、無駄に負けず嫌いな性格。早く大人になりたいと常々つねづね思う。


 ほんとに何なんだろう。


 決して愛想が良いという印象ではない。どちらかといえば、ふてぶてしく、感じが悪い。そのせいで私は声をかけるか迷っている。あと、躊躇ちゅうちょしたのは、一瞬で逃げられ、この時間が終わってしまうのがもったいないな、とも思い始めていた。

 結果、窓を開けて手招きしてみることにした。

 すると、「ミャオ」と鳴く。

 こいつ……なんか、かわいい。よく見ると、ドヤ顔で憎めない顔してる。謎の直視は継続中ではあるけど。

 黒猫で、ふと頭に浮かんだ。

 ほうきと女の子。私が想像する黒猫といえば……


 魔女の猫。


「ミャオ」

 こんなに愛想は悪くないか。サイズも一回り大きかった。

 魔女の猫は、ゆっくりと自分よりも細い枝を伝って向かってくる。怖くないのかなと心配したけど、そんなことは微塵みじんも感じさせなかった。

 そして手を伸ばせば触れられるくらいのところで止まった。

「きれー……」

 輝く海をそのまま閉じ込めたような透明感あふれるブルーに、ぼわっと白い雲のようなシラーぽい光が浮かんでいた。透き通った瞳に吸い込まれそうだった。

 ふと、目を落として、これとうり二つだなと思った。

 左腕には小粒のアクアマリンと透明な水晶が繋がった天然石のブレスレットが巻かれている。

 アクアマリンの語源は水と海。私は勝手に自分の名前を意識して、これは自分のためにある石だと思っていた。

 好きな色は? と聞かれれば、当然、青色だ。

 魔女の猫は、相も変わらず直視していた。

 何か言いたげだけど、そうでもなさそうな表情。

 私は意味なんてあるはずもないのに、このイベントの意味を探していた。

 えさ? そう思ったが、ミャオと鳴くさまを目にして、すぐに絶対違う、と思った。

 ひたすら意味深な合図を送り続けるキャラクター。運命の出会い?

 てか、こいつは味方? 見た感じそうは思えなかった。どちらかといえば闇臭が強い。

 渾身の視線をじぃーと送り返してやった。するとチャイムが鳴った。


 ——小春こはるだ。


 出発時間を五分も過ぎていた。慌てて身支度を済ませ部屋を飛び出した。

 階下ではぬしが大暴れしている。

「七ーー! 七ーー! お迎えよーー! 七ーー! 七ーー!」


 ここは動物園か。


 たく、うるさいな。お母さんの声が家中に響き渡っている。

「——やば」

 学校に付けて行くわけにはいかない。急いで戻りブレスレットを机に置くと、すでに駆け出していた。音速おんそくの音を立てて階段を駆け下り「行ってきまーす」と家を出た。

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