第14話
翌日、ダイニングに降りたステラは目を疑った。
昨日着たはずのマリオンのドレスを、ブリジットがその身にまとっているのである。
慌てて自室のドレスを確認すると、クローゼットにあるはずのドレスは消えていた。
「ブリジット、どうしてそのドレスを着ているの。返して」
「このドレスだって、あんたが着るより私の方が良さを引き出せる。そうでしょう?」
何も言い返せず、ステラは奥歯を噛む。
昨日見た鏡の中の自分より、ブリジットが着ているほうが似合っている気がした。
ドレスはなぜかブリジットのサイズになっていた。
二人の背格好は似ているものの、豊かな身体を持つブリジットに合わせてところどころ直されている。
側に控える侍女の顔色が悪いので、おそらく夜中にドレスを盗ませて夜通し手を入れていたのだろう。
鮮やかなオレンジ色の髪を下ろして自信たっぷりな彼女に、ドレスが従っているようだった。
「こんなに私にぴったりなんだもの。これは私のもの。それに、そういうことにしておいた方が、あんたの為だと思うわよ」
「どういうこと?」
「だから、黙っていてあげるって言ってるの。あんたがこのドレスをどうやって手に入れたのか」
(まさかハウンドに用意してもらったことを知っているの?)
知っていればこんなに強気なのも納得である。一般的な貴族令嬢としてはあまりにもはしたない事だからだ。
一瞬、マリオンが漏らしたのかと思ったがすぐにその考えを打ち消す。
彼女はそんな人ではないと感じた。それに、貴族社会で商売をしている人間が信用を失うようなことをするはずがない。
かといってハウンドもありえない。彼がブリジットに言ったのであれば、彼女はドレスよりハウンドの方に言及するはずだ。
黙りこんで俯くステラに勝利を確信したのか、ブリジットは髪をかきあげる。
「やっぱり。あなた、うちの宝石を盗んでお金にしたんでしょう」
「え?」
あまりにも予想外のことを言われ、思わず顔をあげた。
そこへステラの背後から足音が近づいてきた。
「朝から何をしている」
「お父様、お母様! いいところに」
ステラを追い抜きざま、ブリジットは「言いふらされたくなかったら何も言わないことね」と耳打ちする。そして両親の元へ向かった。
しかしステラは無実であり、奪われたドレスはハウンドが用意しマリオンが配慮してくれた大切なものだ。
「……ブリジットが私のドレスをとったので、返してくれるよう言ったところです」
「なんだって?」
ステラは両親が言い分を信じてくれるとは思っていなかった。
ただ、面倒を嫌う性分なのでブリジットに新しいドレスを買い与え、彼女が今のドレスに飽きて返してくれるならと考えたのだ。
「まあ、やだわお父様。私は正しいことをしたのです。だってこのドレスをステラに買った覚えはあります?」
ブリジットは廊下でくるりと器用に回った。
見覚えもなにも、ステラにドレスを買ったことなどここ数年ない。
「このドレスはマリオンのもの。ちょっとやそっとじゃ手に入れられないわ。それなのにどうしてステラが持っているのかしらぁ。ねえ、宝石の数を最後に確認されたのはいつごろですか?」
両親はさっと顔色を変えて金庫のある部屋や自室へ走っていった。
ステラは宝石など盗んでいない。しかしブリジットは妙に自信たっぷりに言い切っている、その根拠が分からずステラは眉根を寄せた。
そして気づく。
(まさか、ブリジットあなた……!)
「ああっ! ない!」
その時父の悲痛な声が響いた。
そしてどたどたと戻ってくると、両手でステラの襟首を掴んで持ち上げた。
遅れてよろよろとやってきた母も、「あなた、指輪が」と細い声で告げる。
「どこへやった、言え!」
「……ッ!」
間近に怒り狂った父の顔を見て、ステラは敗北を理解した。
(ブリジット……、盗ませたわね)
侍女の顔色が悪かったのは、夜通し針仕事をしていたからというだけではなかったのだ。
明るみに出れば重い罪になることを命じてまで貶めたいかとステラは臍を嚙む。
そして痺れを切らした父に床に叩きつけられた。
「わ、わたしは、げほっ、やっておりません……! ドレスは、頂いたものです。誓います。嘘だと思うのなら、国中の宝飾店にお聞きになればよろしいでしょう」
装飾品を持ち出したところで、換金手段などたかが知れている。
貴族が結婚もしていない人間から宝石を受け取ることなどないし、そうなれば宝石を扱う店に売るしかないがすぐに足が付くのだ。
「……とにかく、地下室へ行って反省しなさい」
父がそう言うとブリジットが満足そうに笑って侍女に仕立屋の予約を命じていた。
「このドレスを可愛い色に染め直さないとね」
姿が完全に見えなくなった後、ステラは父親に向かい合う。
「きっと明日には私の部屋から宝石が出てくると思います。もしくはブリジットが『どこかから』見つけるでしょう。そうなれば、私が宝石を売ってドレスを買ったわけではない証明になるはずです」
父親は目を見開く。
冷静になると、ブリジットの自作自演の可能性が高い事には気が付きはじめたのだろう。
しかしそれを指摘することは自分の判断が間違っていると認めることになる。
地下室行きを命じたのも、事件をうやむやにするために他ならない。
父親は面倒そうに背を向けて去っていった。
(今回は早く出られそうだけど……ドレスは取り戻せなくなってしまった。舞踏会のことは、出てから話せばいいかしら)
イブニングドレスについて相談しようと思っていたのだが、出鼻をくじかれてしまった。
翌日地下室から解放され、改めてバーンズ侯爵家の舞踏会に招かれたことを話す。
「なんだと!? よくやったステラ!」
歴史ある家門になればなるほど、人付き合いには慎重になる。
バーンズ侯爵家ともなれば、長年親交のないグレアム家がいまさら接点を持つのも難しい。
社交界の華であるブリジットですら新興貴族や古なじみとつるんでいる。
伯爵に戻ることを悲願としている両親は、先日の騒ぎもすっかり忘れたように顔を真っ赤にして喜んでいた。
すさまじい手のひら返しである。
「まさかステラがあのお茶会で人脈を作れるとはな!」
「あら私は信じてましたよ。さあステラ。ドレスを選ばなくては」
「いいのですか?」
母親に頷かれ、ステラは思わず興奮で胸が高鳴った。
生命維持に必要な物以外を、自分のために買ってもらえるなんて何年ぶりだろう。
もうすっかり成長したというのに、幼子のような気持ちになった。今から一緒に仕立屋に出かけるのだろうかとそわそわする。
しかしその期待はすぐに脆くも崩れ去る。
背を押され連れていかれたのは、ブリジットのドレッシングルームだった。
ステラのように部屋に備え付けられたクローゼットではなく、一部屋まるごと使っているそこにはドレスやアクセサリー、大きな姿見まである。
「お母さま……?」
「さあ、バーンズ家のご令嬢はどういうものが好みかしら。きちんと引き立て役になれるようにしなければね。ブリジットにはお父様から話を通してあげるから」
母親は微笑みながらあれやこれやとドレスを選んでいる。
無意識のうちに、ブリジットのお気に入りは避けているようだ。
シンプルで装飾が少なめなものはブリジットの好みではないので、数着選び出してこの中から選びなさいと言われた。
(そうだった。私、浮かれてたのね)
ハウンドと出会ってから珍しいことが続いたからかもしれない。
今回もいつもと違うことが起きかもると思って、思い違いをしていた。
綺麗に磨かれた姿見に映るのは、みすぼらしく貧相な少女だ。
ブリジットがドレスを自分のものだと主張するのも、今では自然なことのように思える。
「侯爵家と仲良くできれば良い縁談が来るかもしれないから、とにかく控えめにしておきなさい。あなたは顔も性格もきついから、口を開いたらだめよ」
「……はい」
母親の言うことは正しいように思えた。
期待していた分打ちのめされたステラには、反発する元気も残っていない。
ドレスはこれがいいわね、と渡される。
色は派手だが装飾が少ない。
光にまみれた会場では、派手な色の方が周囲に紛れることだろう。
試着してみるものの、あまりにも似合っていない。
ドレスに完全に負けているし、ドレス自体の良さも消えていた。お互いを殺し合っているような悲惨な結果だった。
夜会用ドレスだから肩や鎖骨が出ているのは当たり前なのだが、サイズを調整したところで印象は変わらないのがありありと見て取れる。
「本当、ブリジットと違って飾りがいがないわね。ちょっと可哀そうかと思ってたけれど、買ってももったいないから買わなくて正解だったわね。デリック君を取られちゃったのもあなたのせいよ?」
ふうやれやれ、と一仕事終えたといったように母親はため息をついた。
使用人にサイズ直しを命じて、おやつでも食べにいったのだろう。
こんなに雑な準備でセシリアの舞踏会に向かっていいのだろうか。申し訳なさと恥ずかしさで顔を上げられない。
不義理を晒すような真似をするなら、体調不良だと言って参加しないほうがいいのではないだろうか。
(ああでも、ハウンドが我が家に目をつけているから婚約者を見つけて諦めてもらわないと……)
使用人が悩むように胸元を仮止めしていくのをぼんやりと見つめる。
鏡に映る自分を見ていると、エスコートを申し出てくれたハウンドもこの姿を見ることになるのだと思い出した。
(見られたく、ない)
彼には恥ずかしいところばかり見られている。
セシリアに誘われた時には希望に思えた舞踏会だが、どんどん気持ちが落ち込んでいく。
ハウンドは魔法のように必要な物を提供してくれたが、魔法はもう解ける時間なのだろう。
フェアリーゴッドマザーの魔法で馬車やドレスやガラスの靴を手に入れても、本人に魅力がなければ王子様には見初められない。
いいや、とステラは考えを打ち消すように頭を振る。
(魔法がないならないで、今までどおりよ。できることをやるだけだわ)
翌朝、父親からブリジットにステラにドレスを貸してやれと話があったようだ。
ブリジットは「ああ、そんなドレスあったわね~。ぷっ、あはは! 似合わなさすぎよぉ!」といたくご機嫌だった。
ステラはそれどころではなかった。
ドレスは決まってしまったのだ。出来ることをやるしかない。
ブリジットの機嫌がいい内に頭を下げ服飾カタログを借りて、なんとか普通にみられるくらいには手を入れようとしていた。
夜会のドレスコード、アクセサリーの合わせ方、手持ちの布やリボンで印象を変える方法などを自室にこもって夜通し研究した。
もちろんヘアアレンジの練習も欠かせない。
そこへノックの音が響いた。
「お嬢様、なにかお届け物があるみたいなのですが……」
「私に?」
ステラに贈り物が届くことはほぼない。新年や記念日のお祝いに親族から義務的に送られるくらいだ。
首を傾げながら階下に降りると、リビングで両親とブリジットがすでに大きめの箱を囲んでいた。
可愛らしいリボンに包まれた品の良い箱だ。
「送り主が分からないんですって。嫌がらせで仲に虫でも入っているんじゃない?」
ブリジットが楽しそうに箱をつつく。
ステラの悲鳴を楽しむために、中身を確認する時を今か今かと待っているのだ。
「あっ……」
箱の中に入っていたのは、白色のイブニングドレスだった。
繊細な飾りのついた肩回り、軽やかに広がったスカート。
ステラの華奢な身体に似合いそうなデザインだった。サイズもステラ用だ。
(ハウンド……)
きっとステラの事情などお見通しで送ってくれたのだろう。
点数稼ぎに余念のない男だが、今はなんだか味方がいてくれたような気がしてステラは頬を緩めていた。
「ずいぶん立派なドレスじゃないか。それを着ていけばいい。我が家にも箔が付くんじゃないか?」
「そうね。ブリジットのものを着るよりマシそうよ。誰からの贈り物なの?」
両親は呑気にドレスを褒めている。
多分この間知り合った仕立屋から……などと誤魔化し、試着のために自室に戻ろうとする。
しかし振り返るといつの間にかブリジットが凄まじい形相で睨みつけていた。
いつ移動したのだろう。
「ブリジット、そこを通して」
「あんたにはドレスを貸してあげたでしょ? それをよこしなさいよ」
「さんざん盗人扱いしておいて、よくそんなことが言えるわね」
そっちの方が山賊みたいだわ、とステラは心の中で思う。
薄々気付いているのだろう。ステラにドレスを贈っている麗しき協力者に。
だからマリオンの新作ドレスを自分のものにして、今届いたドレスもステラに渡したくないのだ。
「どうしても渡さないっていうのなら……」
ブリジットはテーブルに置いてある果実水を素早く手に取って、ドレスにまき散らした。
「ブリジット……!」
制止は間に合わず、ドレスを素早く動かすこともできずに大部分に色水が被ってしまった。
真っ白なドレスがぐんぐんと果実水を吸っていく。
「終わりだと思わないで!」
ブリジットはさらに、後ろ手に隠していたハサミでめちゃくちゃにドレスを切りつけた。
両親もさすがに驚いたのか、ハサミを取り上げるよう使用人に命じる。
しかしブリジットはボロボロになったドレスを確認すると自分からハサミを投げ捨てた。
「あんたなんかが調子に乗るからよ! そのドレスがめちゃくちゃになったのは、あんたが大人しくドレスを渡さなかったから! 恨むなら自分を恨みなさいよ!」
そう吐き捨てるとブリジットは自室へ上がっていった。
両親はおろおろするばかりだったが、母親はすぐにブリジットを追いかけた。
別に叱るわけではなく、なだめるためだ。
父親も行こうとしたが、ふと足を止めてステラを振り返った。
「お前みたいな娘に婚約者探しは無駄だ。バーンズ侯爵家との繋がりはよくやったが、縁談は親に任せておきなさい。もちろん苦労しないように考えている。貴族でこそないが、商談を持つアンカーソンの家が後妻を探しているらしい。いくらか歳を食っているが、夜の方も楽でいいだろう」
ぶちりと頭の中で何かが切れた音がした。
立ち尽くすステラを見て納得したと思ったのか、父親はブリジットの元へ向かった。
リビングに残されたのは、無惨なドレスとステラだけだ。
どちらも、ボロボロになっていた。
たまらなくなってステラは家を飛び出した。
太陽の位置からお昼を少しまわったくらいだろうか。通りはいつも通りの日常だった。
(前に家を追い出された時にハウンドに会ったのよね。魔法みたいに素敵な時間を作ってくれた。私はタネを知ってるから意味はないのだけれど)
タネ、つまり彼の目的である詐欺のことだ。
詐欺師に同情するのもおかしな話だが、徒労を感じるのも居心地が悪い。
実際に対面している時は常に警戒しているので彼の美貌を楽しむ余地はないのだが、こういう時にふと思い返すと恐ろしいほどの美形だと思う。
(あの瞳で見つめられたことが、私の人生の報酬にすらなりえそう)
もし婚約者を得られなければ、ハウンドは諦めずに付きまとって社交界でトラブルの元になる。今でさえ話題の中心だ。
詐欺師のハウンドと結婚することはないから、おじいさんと結婚することになる。
貴族に生まれたのなら結婚は受け入れなければならない。義務だ。
可愛くも可愛げもない自分は、ハウンドにとっては格好の獲物だろう。
だから、絶対に婚約をしなければならない。
しかしどうにも気落ちする。
すぐ近くに自由奔放にふるまっているブリジットを見ているからか、自分の容姿が地味というだけで運命が決裂していることが情けない。
陰鬱な空気をまとうステラの耳に、きゃあきゃあと黄色い声が飛び込んでくる。
どうやらレイクガーデンまで歩いてしまっていたらしい。
広大な敷地の中に湖を擁する公園は、貴族たちの昼の社交場だ。
トップハットとフロックコートの男性と、可愛らしい色のドレスを着た淑女たちが日傘を手に談笑しており和やかな感じだ。
しかし一部を除いて、のようだ。
やたらとスタイルの良い男性の周りに、ご令嬢たちが群がっている。
女性だけではなく、男性も楽しそうに笑っている。
そこから歓声があがっているようだ。
貴族の淑女は自分から話しかけることはあまりないらしい。
それなのに恥じらいながらもあの有様なので、よっぽど家柄や条件のいい男性なのかもしれない。
(あれだけ人気だと婚約者も選び放題なのかしら。……ん?)
ご令嬢の中心にいた男性がトップハットを振って公園の外にアピールしている。
友人でもいたのだろうか。長い脚でずんずん外側へ、つまりステラの方へ向かってくる。
遠目からでも分かる美丈夫の友人に少しだけ興味がわき、周囲を見渡す。
しかし犬の散歩している使用人風の男や、パンを買っている老婆などがいるだけで、知り合いといった感じでもない。
「ステラ様!」
「ハウンド……」
相変わらずよく通る声だった。いつの間にやら柵を挟んで向かい側にいる。
優雅な足取りだったため気付かなかったがそれなりに急いできたらしい。額にうっすらと光る汗がにじんでいた。
(ハウンドがいたならあの状況も納得ね)
ステラが騙せない場合に備えて他の貴族にも目をつけているのだろうか。
緑と昼の光の中の彼は、また違った印象があった。
木漏れ日の中で、光に透けるほど艶やかな少し長い黒髪が風になびいている。
彼自身がきらきらと陽光を反射して、ステラは思わず眩しさに目を細めた。
緑豊かな公園と彼に置いていかれた人々が、あっという間に背景になってしまう。
「どうしてここに?」
「それは私のせりふよ」
グレアム家からレイクガーデンはそれなりに距離がある。
散歩というには不自然だから、ステラは話をそらした。
詐欺師である彼がどうしてここにいるのか純粋に疑問でもある。
「王都に戻って間もないので挨拶回りをしていました。私もまだまだ若輩者ですからね」
詐欺師だというのにブリジットやデリックよりきちんと社交活動を行っている。
そんなハウンドはステラがいることが幸せだとでも言わんばかりに微笑む。
「……なにかありましたか?」
太陽に雲がかかり、彼の薔薇色の瞳の色が濃く強くなる。
ざわざわと強い風と共にステラの心がざわついて、思わず視線を落とす。
今一番会いたくなかったのだ。
ハウンドが贈ってくれたであろうドレスの変わり果てた残骸を見ていられなくて、クローゼットの奥深くにしまってしまった。
それでも彼に説明しないわけにはいかないだろう。
家の内部事情をそのまま話すのはためらわれたので、事故で汚してしまったことにする。
ハウンドは一瞬なにかを考えていたようだった。
(投資なんだしいい気はしないわよね。それに……あのドレスを汚しておいて実際にはブリジットのドレスで参加するのは呆れられるかも)
ブリジットには似合っていたが自分では着こなせないだけだと思って努力しているが、勉強したところでこれといった打開策はまだ見つかっていなかった。
見られたくない、と思ってしまう。
物思いに沈むステラを引き上げるように、ハウンドはことさら明るく「なるほど!」と笑いかける。
その声に呼応するかのように、また雲間から太陽が現れた。
「先に一着届いてしまったんですね。驚かせてしまって申し訳ありません。おそらくもう、『ちゃんと』届いていると思いますよ」
「どういうこと?」
会話が要領を得ない。
しかしそんなのお構いなく、ハウンドは柵を飛び越えてステラの横に立った。
辻馬車をつかまえてステラと一緒に乗り込む。
「え? ハウンド、挨拶は?」
目を白黒させるステラにハウンドはどうでも良さそうにああ、とこたえる。
「今後のステラ様のためになるかと顔を出したんですが、ステラ様がお困りなら挨拶なんかどうでもいいですよね。またの機会にします」
せっかくステラ様が会いに来てくださったんですからと笑う姿は愛らしい子犬のようにも見える。
たしかに野外の社交場では、いつ参加し退場するのかはある程度自由だ。自由だが。
(窓越しに恨めしそうなご令嬢たちの視線を感じていたたまれないわ)
馬車が走り出してレイクガーデンを離れるまでステラは生きた心地がしなかった。
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