パーティ追放逆転劇 〜スキルで力を貸してステータス強化してあげてたけど気付かれてないみたいなので返してもらいます〜

川田スミ

パーティ追放

「ガーシュ、お前をパーティから追放する」


 いつもの酒場の一角で、口から出たのは驚くほど簡潔な言葉だった。


「え?」


 突然すぎて理解できず固まってしまった。当然だ。苦楽を共にしてきた、仲間だと思っていたやつからこんなことを言われるなんて予想できないだろう。


「聞こえなかったのか?追放だと言ったんだ」


「トルソ、いきなり何を言い出すんだ。今まで一緒に頑張ってきたじゃないか」


「頑張ってきた?本気で言っているのですか?何の役にも立っていないくせに!」


 魔法使いのソーミが追い打ちをかける。普段は理知的で落ち着いた印象の女の子だ。魔法にしか興味がないちょっと変わった娘だとは思っていたが、こんな辛辣な言葉で罵るなんて思ってもみなかった。


「キャハハ!コイツ、もしかして自分がお荷物だって気づいてないんじゃないの?ハッキリ言ってアンタはゴミ以下なんだよ!」


 いつもハイテンションなヒーラーのユーショがさらに煽る。パーティのムードメーカーである彼女は、口は悪くても本当に相手を傷つけるようなことは言わないやつだと思っていたのだが。


「ガネヴィ、なんとか言ってくれ」


 重戦士のガネヴィは真面目で寡黙だ。モンスターとの戦闘中も余計なことは言わず盾役を淡々とこなす。


「お前のせいで俺たちがどれだけ危険な目にあったかわかるか?このパーティにとってお前は害でしかない」


 彼なら助けてくれるという当てが外れ、再度突き放される。その読み取りづらい表情の裏でそんなことを考えていたなんて。


「本当にいいのか。俺がいなくなったら困るのはお前たちの方だと思うぞ」


「……もう一度言うぞ。お前にはパーティから出て行ってもらう。これは俺の、そしてパーティの総意だ」


 こいつは気付いていないようだが、スキルの力で俺の力がお前に渡り、ステータスが強化されていた。その一方で俺のステータスは格段に下がり、本来の半分にも満たない力しか出せなくなっていた。それでもなんとか役に立とうと、力が入らない腕で剣を振り、息を切らしてみんなにポーションを届け、その他の雑用も引き受けた。その間お前は何をやっていた?


 俺たちは同じ村の出身だ。二人で田舎の村から王都までやってきて、紆余曲折あって冒険者になった。お前は腕力があるわけでも、優れた剣技があるわけでもないのになぜか自信たっぷりだったな。でもどこか憎めなくて、いつしか危なっかしいお前を助けるのが俺の役目になっていた。


 スキルの特性を知った時は俺の力をお前に差し出そうと当然のように思ったよ。お前には死んでほしくなかったからな。


 そんな俺とお前だから、心の底ではわかってくれていると信じていたから今まで耐えてきたんだ。それなのにこの言い草はなんだ?


 もういい、こいつの為に血反吐を吐きながら駆けずり回るなんてもうごめんだ。


 沈黙が流れる。


「わかったよ。そんなに言うなら出て行ってやる」


「わかってくれて良かった。そうだ、その剣と鎧は置いていけよ。お前には相応しくない装備だ」


「これは俺の取り分のはずだろう!なんでお前たちに渡さなきゃならないんだ!」


「……二度は言わない」


 それ以上は言い返す気力がなかった。



 酒場を出てギルドへ向かう。

 幼馴染との決別で小さくない傷を心に負ったが、今日も稼がないと生きていけない。金はあいつが管理してたから財布には小銭しか入ってないのだ。


「そうだ、さっさとスキルを解除しておこう」


 このスキルは力を貸す側の意志で解除できる。喧嘩別れに終わった今、もはやスキルを維持しておく理由は無くなった。


「力よ戻れ」


 途端に貸していた力が返ってくる。全身を駆け巡るエネルギー。数年ぶりの感覚に身震いする。これでパワーもスピードも、本来の状態に戻ったはずだ。あいつは自分のステータスが急激に下がったことに気付いたかな?まあ気付くぐらいならあんなことを言うわけないか。本当にもうどうでもいい。幼馴染だったあいつは死んだと思うことにしよう。


 ギルドの建物に入ると、受付のパッペが声をかけてくれた。数少ない、スキルの効果と俺の事情を知っている人物だ。パーティからの追放とスキルを解除したことを伝えると、笑顔で励ましてくれた。


「お前の献身を理解しないヤツのために苦労するなんて、才能の無駄遣いだぜ」


「そんなつもりはなかったんだけどな。ただあいつの力になりたかっただけで」


「お前は謙虚過ぎるよ。そうだ、早速仕事を頼みたいんだ。スキルを解除したんならAランクの依頼だってこなせるだろう」


「別に高ランク冒険者になりたいわけではないんだけど」


 苦笑した俺を無視してパッペが依頼書を手渡す。


「西の山に住むレッドドラゴンの討伐依頼だ。力を取り戻したお前なら余裕だろ?」





 一方その頃――


 王都の門から東へ、隣町までは街道が整備されている。この辺りで出てくるモンスターはゴブリンか、せいぜいオークぐらいだ。群れに遭遇すれば面倒だが、それでも危険度は低い。


 ちょうど道のりの半分ほどのところで3体のゴブリンが現れた。駆け出し冒険者から奪っただろう剣や棍棒で武装している。


「面倒だな。さっさと倒して先を急ごう」


 素早く剣を抜き放ち、最前列の1体に上段から打ち込んだ。


「まず1匹……あれ?」


 ゴブリンは全くの無傷だ。


「俺の剣をかわした!?」


 途端にゴブリンたちの反撃が始まる。襲いかかる剣と棍棒を必死で防ぐが、一撃ごとに体は仰け反り後退を余儀なくされる。


「なんでゴブリンがこんなに強いんだ!」


 そのまましばらく耐えるも、ついに3体に囲まれる形になってしまった。


「ぎゃあああああ!」


 剣を持っていたはずの腕がない。肘の先から勢いよく吹き出す血。

 暗くなる視界に最後に映ったのは、振り下ろされる錆びた剣だった。









「じゃあ行こうか、ソーミ、ユーショ、ガネヴィ」


 依頼書を受け取った俺が声をかけると、しばらく黙っていた3人が口を開いた。


「アイツ、呪いの装備を持って行っちゃったね。アタシが毎日解呪の魔法をかけてたから命を吸われずに済んでたのに」


「その前にトルソから借りていた力が無ければDランクモンスターすら倒せん。街から出たらすぐに死ぬだろう」


「これまでトルソと私たちにどれだけ助けられていたかも理解せず、その上パーティの共有資金を使い込んだのです。これ以上気にかける必要はありません」


 俺は短いため息をついた。


「俺は、ガーシュが謝ってくれれば許すつもりだったんだ。でもあいつは……」


 言いかけた言葉を飲み込み、顔を上げて歩き出す。


「行こう。謝ってきたってもう遅い」










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 「一方その頃」より前の独白は全てガーシュのものです。パーティの資金を使い込んだ親友を追放せざるを得なくなった上、その親友に悪態をつかれて心が折れかけています。また普段とは違うパーティメンバーの態度に驚いています。


 ちなみに登場人物の名前は「料理のさしすせそ」からです。


ガーシュ →シュガー(砂糖)

トルソ →ソルト(塩)

ガネヴィ →ヴィネガー(酢)

ユーショ →ショーユ(醤油)

ソーミ →ミソ(味噌)

パッペ →ペッパー(コショウ)おまけ


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パーティ追放逆転劇 〜スキルで力を貸してステータス強化してあげてたけど気付かれてないみたいなので返してもらいます〜 川田スミ @kawakawasumi

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