第5話 彼女は大事な時ほど体調を崩す
読み方
効果音:〇〇の音
〇〇のような音が流れているものと扱ってください。
「」の中身はすべてヒロインのセリフです。
『』の中身はすべてヒロインが回想しているヒロインのセリフです。
あなたは【普段キツいことばっかり言ってくるクラスメイト女子の飼い犬】です。
トイプードルの肉体でお読みください。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
約束の日、約束の時間に出かけようとしていたあなたは、また犬の体に入っていた。
「うぅ……ゴホッ、ゴホッ……」
彼女のせき込むような声が聞こえる。
あなたはベッドに乗り上げて、彼女のほっぺたを舐めていたところだった。
目の前にはパジャマ姿でベッドに入っている彼女がいる。
一目で風邪だとわかる。
「どうしてぇ……どうしてぇ……」
効果音:きゅうん、という犬の鳴き声。
「ごほっ、ごほっ……なんで今日なの……? 当日のことお風呂で考えてたら夢中になっていつのまにか水風呂になってたのが原因? それとも当日までに少しでもスタイルよくしたくて深夜から朝までずっとランニングしてたのが悪いの? ……まさか会話デッキを揃えるために動画見てたらいつの間にか椅子で寝ちゃってたせい……?」
効果音:困り果てた犬の鳴き声。
「……いつも、こうなんだ」
咳き込む。
「……私ね、ずっと昔から、こうだったの。楽しみにしてる時ほど、馬鹿なことして台無しにしたり……好きな相手ほど、変な言葉が出ちゃって嫌われたり……人付き合いが下手なんだよね」
「だから、なるべく変に思われないように、人と距離をとって……あんまり、人と深く付き合いすぎないように、がんばってた」
「……なのに」
「どうしてだろうね。誰かを好きになっちゃうのって」
「私は恋が叶わない呪いがかけられてて、好きな人ほど傷つけるようなことを言っちゃうの」
「まともに会話もできないの。まともに顔も見れないの。言葉が詰まって、頭が真っ白になって、でも、胸が苦しいから、もがくみたいに言葉を出して、それで相手に嫌われる」
「誰も傷つけたくないよ」
「だから、誰も好きになりたくない」
「でも、好きになっちゃうの。誰も傷つけたくないのに。相手も、自分も、傷つかないでいられたら、それはとっても、いいことでしょう?」
「なんで私は、こんなにトゲトゲなの?」
咳き込む。
「ああ、苦しい。本当に苦しい。どうして神様はいつも、私に叶わない恋ばっかりプレゼントするんだろう。……うまく息ができないよ。水の中にいるみたい。水の中にいるトゲトゲって……あはは。ウニだね、私、ウニだ」
「ああ……」
「私は、貝になりたい」
「殻にこもって口を閉じて、ただ静かにいられたらいいのに」
「……ぶくぶく、ぶくぶく」
「わかってるよ。人魚姫でいたい、は高望みだよね。私はあんなに、綺麗じゃ……」
咳き込む。
彼女の頭の中に、かつて、彼女が好きになった相手に言い放ってしまった言葉がリフレインする。
『そんなこともわからないの? かわいそうだし、私が教えてあげてもいいけど』
『なんの用? 話しかけられるような事情、なかったと思うけど? 何?』
『本当にこんなこともできないんだ。見てられないから、私が手伝ってあげてもいいよ?』
『だから、そうじゃないってば! これは、そうじゃなくって、アンタが全部悪いの!』
『別に好きとかじゃないから! むしろ、嫌い! 嫌い! 嫌い!』
『どうして私にかかわるの? 私の方は、あんたに何もしてないんだけど』
頭痛が彼女を現実に引き戻す。
「ぅ……痛ぁ……」
「ぁ、そう、だ。連絡、しないと……連絡も、してなかったんだ、私」
「ほんと、幼稚園児でもできることが、できなくって」
「口を開けば、好きな人を傷つけるばっかりで」
「約束は、行けないし」
「たぶん……っていうか、絶対、これ、私が馬鹿なことしたせいだよね」
「ああ……」
「終わっちゃったなあ」
彼女はヘッドボードのスマホに手を伸ばした。
しかし、メッセージを送る前に意識が落ちてしまう。
効果音:犬が気づかわしげに鳴く音。
彼女は動かない。
完全に意識が落ちている。
効果音:犬が気づかわしげに鳴く音。
効果音:犬が気づかわしげに鳴く音。
効果音:犬がベッドから降り、フローリングの上を歩く音。
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