第4話 彼女はデート(?)の約束をする

読み方


効果音:〇〇の音

〇〇のような音が流れているものと扱ってください。


「」の中身はすべてヒロインのセリフです。


『』の中身はすべてヒロインが回想しているヒロインのセリフです。


あなたは【普段キツいことばっかり言ってくるクラスメイト女子の飼い犬】です。

トイプードルの肉体でお読みください。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ただいまー!」


効果音:元気よくドアが開かれる音。


 あなたはまた犬になっている。


 今日の彼女は元気いっぱいで帰ってきた。

 靴を投げるように脱ぐとあなたを抱えてくるくる回り、胸に抱きしめる。


「聞いて! 聞いて! 今日はね、すごいんだよ!」


「デートすることになったの!」


 あなたは首をかしげた。


「一緒にお散歩することになったの!」


 犬にもわかる言い換えだが、あなたは首をかしげた。


「どうしてこうなったか聞きたい? そっかあ、聞きたいかあ。じゃあ教えてあげる! 実はね……」


 彼女は回想する。


『ねぇ………………』


『連れて行ってあげてもいいけど!?』


『……あ、いえ、そうじゃなくて、あの……』


『順を追って話しましょう』


『私、なんていうか、その……』


『あ、あ、あ、あの、えっと……』


『強く当たるところがあるじゃない!?』


『だからね、えっと……気に入らない……そう、気に入らないの! 私のこと、怖いとか、いつも大声とか、そういうふうに思われるの!』


『本当の私はこうじゃないから! あんたのせいなの!』


『あ、え、あの、せいっていうか、その……』


『とにかく!』


『私のこと怖い人みたいに思われてもイヤだから! 私が怖くないことを、教えてあげてもいいんだけど!?』


『え、ええええ!? 知ってる!? 知ってるって言った!?』


『そういうのやめなさいよ! 知らない前提で話してるのに!』


『そ、そ、そ、そんなこと言われたら、この先どうやって話を続けたらいいのよ!?』


『え? じゃあ、知らないことにする? 何よそれ!? 私のこと馬鹿にしてるの!?』


『あう、あえ、ちが、違うの。えっと……』


『…………(唸る)』


『とにかく!』


『次の休みの日に、散歩に付き合わせてあげる!』


『え? 犬? なんでうちに犬がいること知ってるの? 言った? 私が? そうだっけ……あ、名前も知ってるのね。じゃあ言ったのかも……』


『そう、トイプードルで……あ、完璧に言ってるやつだわ……』


『あの、でも、でもね? 散歩っていうのは、犬の散歩じゃなくって』


『あ、そっちも犬がいるの? へぇ、そうなの? ふうん。じゃあそっちの散歩でもいいかな……』


『え、これあなたの犬? うわあ、大きい……生まれた時からいるの? 老犬じゃない! 大丈夫? 大丈夫なんだ。すごいわね、大型犬……こんな大きいの、どうやってお世話してるの?』


『あ、普段はケージに入れてるんだ。そうよね……寝てる間にのしかかられたりしたら大惨事だし……体重一トンぐらいない? さすがにそんなにはないのかしら……でもあなたより大きくない?』


『……ってそういう話をしたいんじゃなくて!』


『え? えー、えーっと、えー、えー……そう、散歩。散歩の話よ!』


『じゃあ次の土曜日でいいかしら!? 約束したからね! なしとか言わないでよ! 約束破るとか最悪なんだから!』


『忘れないでよ! 忘れたら……わかってるわよね?』


『ああああ違う違う違う、こういうところが……と、と、とにかく! 散歩! 行くから! 散歩ね! 犬とか忘れるんじゃないわよ! 約束したから! じゃあね!』


効果音:慌ただしく駆け去る足音。


 回想終了。


「なんで私、いちいち宣戦布告みたいになるんだろう……」


 あなたのけむくじゃらな体に顔をうずめる。


「しかも、あなたのこと利用したみたいになってる……どうして私はいつもこう……ううん。いつもじゃない。あの人の前でだけ、こんなふうになって……他の人の前ならできることが、全然できないの」


「……散歩の約束、したのよね」


「散歩が終わったあと、面会謝絶状態になったらどうしよう……別に病院送りにするって話じゃないけど……」


「ううううううう……! か、考えたら緊張してきた……! 練習! 練習します!」


「今日はハイペースでお散歩するわよ! 私、全力で走るから!」


効果音:ドタドタという足音。


 あなたの意識が犬の肉体から勢いよくはじき出される。

 お散歩に伴う興奮が憑依状態を解除したのだ。


 再び彼女の足音が戻ってくる時、すでにあなたはそこにいなかった。

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