第3話 彼女は謝るのに失敗する

読み方


効果音:〇〇の音

〇〇のような音が流れているものと扱ってください。


「」の中身はすべてヒロインのセリフです。


『』の中身はすべてヒロインが回想しているヒロインのセリフです。


あなたは【普段キツいことばっかり言ってくるクラスメイト女子の飼い犬】です。

トイプードルの肉体でお読みください。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 とぼとぼと彼女が家に帰ってくる。


効果音:とても元気なく家のドアが開く音。


「……あ、申し訳ありませんでした。私は幼稚園児でもできることができない者です」


 初手自虐をする彼女を見上げて、相変わらずなぜか犬になっているあなたは首をかしげた。


 彼女が玄関の段差に膝をついて、あなたを抱き上げる。

 耳元ですすり泣く声がする。


「約束、守れなかった……謝るって言ったのに」


「謝れなかったよ」


 あなたは首をかしげた。


 彼女は回想する。


『ねぇ、ちょっと、話があるんだけど、いい?』


『実は、その、昨日のことで……』


『……いや、わかるでしょ? 昨日のことよ。その……』


『もう二度と手伝ってやんないって言ったこと』


『え? 別に構わない?』


『………………(うううう、とか、むううう、という唸り声)』


『そういうことじゃなくって……!』


『違う違う、そうじゃなくて。ダメ。ここで頭が混乱するからダメなの(自分に言い聞かせるような小声)』


『(深呼吸)』


『……だからね、私が言いたいのは……』


『…………その』


『て、て、て……』


『手伝ってあげてもいいのよ!?』


『だって一人じゃ大変でしょうから、私が気遣って言ってあげてるの!』


『それなのに断るの、失礼なんじゃない!?』


『………………あの』


『ち、違う、違うの。これは、その……そういうことが言いたいんじゃなくって……』


『ごめんなさいいいいいいいいいい!』


効果音:慌ただしく駆け去る音。


 回想、終了。


「……よく思い返せば、謝りはしてたかも。でも……」


「あんなんじゃ、謝ったうちに入らないよね」


「あのね、聞いて。私……ダメなの」


「話してると、どんどん、頭が真っ白になってきて、それで、思ってもないこと言っちゃうっていうか……」


「ううん。違う。思ってるんだ。たぶん。思ってること、なんだよ。でもね」


「思ってるの。たぶん、イライラしてるの。……自分自身に、すごく、イライラしてる」


「なんでこんなにうまくいかないんだろう」


「なんでこんなに、特定の人の前でだけ不器用になるんだろう」


「なんで、いつも……私の恋に、私自身がこんなにも立ちふさがるんだろう、って……」


「そう思ったら、イライラして、イライラが、全部、言葉になっちゃうんだ」


「私に向けてる苛立ちが、人に向けるトゲトゲの言葉になるの」


「そうじゃないの。本当は、そういう言い方をしたいんじゃないの。なのに……」


「ダメなの」


「どうしたらいいかなあ」


「ねぇ、私って、イヤな人間?」


「……って、わかんないか。でも……てんどんにまで嫌われたら、私……」


「待っててね。お散歩、連れて行くから」


効果音:力なくフローリングを歩く音。

効果音:犬が切なげに鳴く声。


 彼女が着替えて降りてくると、あなたの意識は遠ざかっていった。

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