第21話「はじめての『にげる』」
アビスドラゴンが姿を現し、その巨大な存在感がカヨたちを圧倒していた。漆黒の鱗に覆われた体が暗闇を吸い込むかのように光を遮り、その翼が広がると、まるで世界全体が暗闇に包まれるようだった。
「なんて大きさだ…!」
広瀬が驚愕の声を上げ、全員がその巨大な敵に怯えていた。アビスドラゴンはゆっくりとその冷たい瞳でカヨたちを見つめ、巨大な鎌のような尾を振り上げた。
「気をつけて!このドラゴン、今までのどの敵よりも強力よ!」
ヴァルドが叫び、全員が戦闘態勢に入った。リリアが矢を放ち、ザックが側面に回り込んで攻撃の隙を探るが、アビスドラゴンの硬い鱗にはまったく効果がない。
「なんて硬さなの…!」
リリアが矢を放ち続けても、アビスドラゴンはまったく動じることなく、ゆっくりと鎌のような尾を振り下ろした。ザックがその攻撃を避けるが、地面に衝撃が走り、大地が割れた。
「皆、後退しましょう!このままじゃ持たないわ!」
ヴァルドが指示を飛ばし、全員が一旦距離を取ろうとした。しかし、アビスドラゴンは追撃をかけるように、再び巨大な尾を振り上げた。
「アイナ、回復をお願い!」
カヨが叫び、アイナが急いで回復魔法を唱えたが、その魔力も次第に尽きかけていた。皆の体力は、これまでの戦闘で限界に近づいていた。
「これじゃ…勝てない…」
広瀬が疲れた声で呟いた。体力は底をつき、動きも鈍くなっていた。アビスドラゴンの圧倒的な力に対抗する手立てが見つからない中、カヨたちは次第に追い詰められていく。
「このままじゃ…全滅してしまう…」
ヴァルドが焦りを見せながらも、冷静に状況を見極めていた。リリアの矢も、ザックの素早い動きも、今のアビスドラゴンには通用しない。そして、皆の疲労が積み重なり、動きが鈍くなっている。
「カヨさん…私たち、逃げるしかない…」
広瀬がカヨに訴えた。カヨもまた、ここでの戦いが無謀であることを理解していた。
「そうね…今は無理しない方がいいわ。ここは一旦退却しましょう」
カヨは全員に退却の指示を出した。皆がそれぞれの力を振り絞り、何とかその場から逃げ出した。
「今は無理をせず、力を蓄えて再挑戦するべきよ。無駄に命を落とすわけにはいかないわ」
ヴァルドの言葉に全員が頷き、アビスドラゴンの攻撃をかわしながら何とか安全な場所まで逃げ切った。後ろでは、アビスドラゴンがその巨大な体を動かしながら彼らを見送るように立ち尽くしていた。
「皆、大丈夫…?」
カヨが息を切らしながら周りを見渡すと、全員が何とか無事に集まっていた。しかし、全員が疲労困憊であり、戦う気力は完全に消耗していた。
「…やっぱり私たちはまだ、この敵には勝てない…」
広瀬が悔しさを滲ませながら言った。カヨも同じ思いだったが、無理をして戦い続けるよりも、命を守る選択が正しいことを理解していた。
「でも、私たちは諦めないわ。必ず、このアビスドラゴンに打ち勝つ方法を見つけるわ」
カヨの決意に、広瀬もヴァルドも頷いた。彼らは一時的に退却したが、このまま終わるわけにはいかないと強く感じていた。
「まずは休んで、力を取り戻しましょう。それから、次の戦略を考えるのよ」
ヴァルドが冷静に指示を出し、全員がそれに従った。彼らは一時的な敗北を認めながらも、決して諦めることなく、次なる戦いに向けて力を蓄えることを決意したのだった。
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