第20話「黒マントの骸骨」

霧が再び濃くなり、カヨと広瀬が進む道は見えづらくなっていた。霧の谷を抜け出せると思った矢先、空気が一変し、不気味な気配が漂い始めた。


「カヨさん、なんだか嫌な感じがする…」


広瀬が不安げに呟いた。カヨも同じように、胸騒ぎを感じていた。二人の背筋に冷たい汗が流れる。


「気をつけて、何かが近づいてる…」


カヨがそう言った瞬間、霧の中から低く唸るような音が響いてきた。その音はまるで何か巨大なものが地を這うような、重く鈍い音だった。


「何だ…?」


ヴァルドが鋭い目で霧の中を睨む。リリアも弓を構え、ザックは素早く動ける体勢を取っている。アイナは後方で魔法の準備をしていた。


霧が動き、何かが近づいてくる気配がさらに強まった。その時、突然、巨大な影が霧の中から姿を現した。


「出た…!」


カヨが驚きの声を上げる。霧の中から現れたのは、「シェイドリーパー」と呼ばれる巨大な影の怪物だった。シェイドリーパーは、この異世界で最も恐れられる存在の一つで、その姿はまるで漆黒のマントを纏った骸骨のようだった。


シェイドリーパーの体は闇そのもののように黒く、周囲の光を吸い込むようにして漂っている。その長い腕には、巨大な鎌が握られており、その刃は鋭く光っていた。鎌が一度でも触れると、魂を刈り取られると言われている。


「皆、構えろ!このシェイドリーパーは手強いぞ!」


ヴァルドが叫び、全員が一斉に戦闘態勢に入った。シェイドリーパーはゆっくりと鎌を振り上げ、まるで何かを待っているかのように動きを止めた。


「何か…様子がおかしい…?」


広瀬が疑問を口にした瞬間、シェイドリーパーが突然、霧の中に溶け込むように消え去った。


「どこへ行ったんだ…?」


リリアが周囲を見渡すが、シェイドリーパーの姿はどこにもない。その瞬間、背後から再び低いうなり声が響き渡り、シェイドリーパーが再び現れた。


「後ろだ!」


カヨが叫び、全員が素早く反転したが、シェイドリーパーはすでに攻撃態勢に入っていた。巨大な鎌が闇の中から振り下ろされ、リリアが咄嗟に矢を放つが、シェイドリーパーの体を貫くことはできなかった。


「どうすれば…?」


広瀬が焦りを見せるが、カヨは冷静に考えた。シェイドリーパーは単純な攻撃では倒せない、何か弱点があるはずだ。


「リリア、ザック!シェイドリーパーの動きを封じて、私たちが隙を作る!」


カヨが指示を出し、リリアが再び矢を構えた。ザックは素早くシェイドリーパーの側面に回り込み、隙を探る。アイナも後方から回復魔法を唱え、全員の体力を維持していた。


「行くよ、カヨさん!」


広瀬が剣を構え、カヨと共にシェイドリーパーに向かって突進した。二人は息を合わせ、シェイドリーパーの鎌の動きを避けながら攻撃の機会を伺った。


「今だ、広瀬さん!」


カヨが叫び、広瀬が全力で剣を振り下ろす。その瞬間、シェイドリーパーの体が霧のように分散し、カヨと広瀬の攻撃をかわした。


「また消えた…?」


シェイドリーパーは再び霧の中に姿を消した。しかし、カヨはその動きに何か規則性があることに気づいた。


「広瀬さん、あの鎌が鍵かもしれない。あれを狙ってみよう!」


カヨの直感に広瀬が頷き、二人は再びシェイドリーパーが現れるのを待った。霧の中で気配が再び濃厚になり、シェイドリーパーが再度現れた。


「今だ!」


カヨが叫び、広瀬がシェイドリーパーの鎌を狙って剣を振り下ろした。その剣が鎌に触れた瞬間、シェイドリーパーの体が震え、闇が急速に薄れていく。


「効いた…!」


リリアが矢を放ち、ザックが素早く動いて鎌を攻撃する。アイナの魔法もシェイドリーパーを弱らせ、ついに怪物は地に崩れ落ちた。


「やった…!」


カヨが息を切らしながらも、無事にシェイドリーパーを倒したことに安堵の表情を見せた。


「カヨさん、すごいよ…やっぱり私たち、やれるかも」


広瀬が微笑みながら言うと、カヨも笑顔を返した。


「まだまだだけど、少しずつね。でも、みんなと一緒ならきっと大丈夫」


二人は力を合わせて戦ったことで、少しだけ自信を取り戻すことができた。彼女たちの旅はまだ続くが、次の試練に立ち向かう力を得たことを感じていた。


霧が晴れ始め、再び進むべき道が見えてきた。カヨと広瀬は仲間たちと共に、その道を歩き続けることを決意した。

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