第14話「霧の谷への出発」

暗黒の森に潜む「霧の谷」への任務が決まり、私たちは準備を整えることになった。広瀬さんと私は、未だに心の中に大きな不安を抱えていたが、仲間たちと共に戦うことでその不安を少しでも和らげようとしていた。


出発の日、私たちは早朝の薄暗い中、王宮の外に集まった。ヴァルド、リリア、ザック、アイナ、それに私たち二人――この6人が今回の任務のメンバーだ。霧の谷は森の奥深くにあり、そこへ到達するためには険しい道を越えていかなければならない。


「皆、準備はいいか?」


ヴァルドの声が静かに響く。彼の声には揺るぎない決意が感じられ、私たちもその声に引き締まる思いだった。


「いつでも大丈夫です」


リリアが矢筒を背負い、軽く頷く。彼女の目はすでに戦闘に向けて集中しているようだった。


「情報収集は任せてください。先行して敵の動きを探ります」


ザックが黒いフードを深く被り、森の方角を見据えていた。彼の冷静な態度には、どこか頼もしさが感じられる。


「私はいつでも治療の準備ができています。皆さんの安全を第一に考えますから、何かあればすぐに言ってくださいね」


アイナの穏やかな声に、私たちは少しだけ緊張を和らげることができた。彼女の存在が、私たちに安心感を与えてくれる。


「カヨさん、広瀬さん、どうか落ち着いて指揮を取ってください。私たちが皆さんを支えます」


ヴァルドが私たち二人に向かって力強く言う。その言葉に、私たちは深く頷いた。リーダーとしての責任は重いが、仲間たちが支えてくれることを信じて前に進むしかない。


「ありがとう、ヴァルドさん。私たち、精一杯やります」


広瀬さんが強い意志を込めて答えた。その声に励まされ、私も決意を固めた。


「それじゃあ、行きましょう」


私たちは互いに軽く頷き合い、霧の谷へ向けて歩き出した。道中、森の中は次第に薄暗くなり、霧が立ち込め始める。視界が狭まり、辺りの音が耳に響く中で、私たちの緊張感は一層高まっていった。


「ザック、偵察を頼む」


ヴァルドの指示で、ザックは音もなく森の中に消えていった。彼の姿が見えなくなると、不安が再び胸に押し寄せてきたが、私はそれを振り払うように意識を集中させた。


「リリア、前方の警戒を。何かあればすぐに知らせてくれ」


「了解」


リリアは素早く動き、周囲を警戒しながら進んでいく。その後を私たちは慎重に進んだ。森の中の霧は濃く、視界がほとんど利かない状態だったが、リリアの頼もしさに支えられながら、一歩一歩前へと進んでいった。


「アイナ、私たちの後方を守ってくれ」


「わかりました。皆さん、どうかご無事で…」


アイナの言葉には優しさが込められていた。彼女が後方から支えてくれていることが、私たちの大きな力になっていた。


道を進む中、突然ザックが木々の陰から現れた。


「前方に何か動きがある。おそらく敵だ」


その言葉に、私たちは緊張を高めた。敵と遭遇する可能性が高まった今、私たちは戦闘態勢に入るしかなかった。


「ここからが本番だ。皆、気を引き締めて進むんだ」


ヴァルドの声に私たちは頷き、剣を握り直した。恐怖と不安が混じり合う中、私たちは自分たちの運命を切り開くために、前へと進み続けた。


霧の谷は、私たちにとって最初の大きな試練となる場所だ。これからどんな危険が待ち受けているのかはわからないが、仲間たちと共にこの試練を乗り越えていく決意を新たにした。これが、私たちの異世界での本当の戦いの始まりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る