第8話「対人戦」

剣の基本的な動かし方を教わった私たちだが、それを自分のものにするにはまだまだ時間がかかりそうだった。広瀬さんも私も、剣を握る手が震え、訓練の度にその重さに押しつぶされそうになっていた。


それでも、少しずつ剣を振ることに慣れ始めたころ、ライエル隊長は次のステップに進むことを告げた。


「さて、今日は実際に相手と向き合って、対人戦闘の訓練を行おう」


その言葉を聞いた瞬間、私たちは顔を見合わせた。広瀬さんの顔に浮かんだのは、私と同じく不安と恐怖の入り混じった表情だった。


「対人戦闘…ですか?」


私が思わず尋ねると、ライエル隊長は静かに頷いた。


「そうだ。実際の戦闘で最も重要なのは、相手の動きを見極め、自分の動きを適切にコントロールすることだ。相手がいて初めて、剣の使い方が実際に試されるんだ」


剣を振るだけでも精一杯なのに、相手と向き合って戦うなんて、考えただけで足がすくんでしまいそうだった。しかし、私たちはこの世界で生き残るために、避けては通れない道だということも理解していた。


「心配はいらない。最初は軽い模擬戦から始める。相手も力を加減してくれるから、リラックスして挑んでみてくれ」


ライエル隊長の言葉に少し安心したものの、それでも不安は拭いきれなかった。私たちは訓練場の中央に立ち、周囲にいる兵士たちの視線を感じながら、互いに剣を構えた。


「まずは、カヨさんと広瀬さん、お互いに剣を振ってみよう」


ライエル隊長の指示に従い、私は震える手で剣を握りしめた。広瀬さんも同じように剣を構え、私たちは互いに距離を詰めた。


「いくよ…」


「うん、気をつけてね」


私たちはお互いに小さく声をかけ合いながら、恐る恐る剣を振り下ろした。広瀬さんの剣が私の剣に軽く触れ、カツンという音が響く。その音が、私たちの緊張をさらに高めた。


「うまく力を抜いて、相手の動きを見ながら動いてみよう」


ライエル隊長が指導するが、私たちはまだその言葉に従う余裕がなかった。剣を振る度に、体がぎこちなく動き、バランスを崩しそうになる。


それでも、少しずつ互いの剣が当たる感覚に慣れていくと、ほんの少しだけリズムがつかめてきたように感じた。広瀬さんも私も、息を合わせて剣を振り、避ける動作を繰り返す。


「そうだ、その調子。まずは基本を覚え、少しずつスピードを上げていこう」


ライエル隊長の言葉に少しだけ自信を持ちながらも、私たちはまだまだ不安でいっぱいだった。剣を持つ手は震え、心臓が激しく鼓動を打っているのがわかる。だが、それでもこの瞬間、少しだけ自分たちが成長しているのを感じた。


「カヨさん、もう少し力を抜いてもいいかも…」


広瀬さんが優しく助言してくれる。私たちは互いに支え合いながら、少しずつだが確実に前に進んでいた。


しかし、その時だった。広瀬さんの剣が思わず強く振り下ろされ、私の剣を弾き飛ばしてしまった。剣が手元を離れ、地面に落ちる音が響く。


「ご、ごめんなさい!」


広瀬さんが慌てて謝るが、私は大丈夫だと言って微笑み返した。剣を拾い上げ、再び構えるが、その瞬間、恐怖が一気に押し寄せてきた。


「もう一度だ、今度はゆっくりでいいから、相手の動きをよく見て」


ライエル隊長の指導のもと、私たちは再び剣を振り始めた。恐怖と不安が交錯する中、私たちは何とか訓練を続けた。


この初めての対人戦闘の訓練は、私たちにとって大きな試練だった。不安と恐怖を感じながらも、少しずつ自分たちの力を試し、克服していかなければならない。これから先に待ち受ける本物の戦いに備え、私たちは今、恐怖に向き合う時が来たのだと感じた。

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