第5話「異世界での初めての朝」

不安に包まれたまま迎えた異世界での初めての朝。


私は広瀬さんと共に、ぎこちない気持ちでベッドから起き上がった。窓の外から差し込む朝日が美しいが、その光景に癒されるどころか、むしろこの世界の現実を痛感させられる。


「おはようございます。お二人とも、よくお休みになれましたか?」


朝食を運んできたのは、昨晩も世話をしてくれた優しげな女性だった。彼女は明るい笑顔を浮かべているが、私たちの表情が曇っているのを見て、少し心配そうに眉をひそめた。


「はい…まあ、なんとか…」


広瀬さんが答えるが、その声には明らかに元気がない。私も同じで、正直なところ、昨夜はほとんど眠れなかった。異世界で目覚めた現実が重くのしかかってくる。


「今日から少しずつ、この世界のことを学んでいってくださいね」


「は、はあ…」


「何かわからないことがあれば、どうぞ何でも聞いてください」


女性は優しく言ってくれるが、私たちの不安が完全に消えることはなかった。それでも、彼女の言葉に少し励まされながら、朝食に向かった。


朝食のテーブルには、再び見たことのない料理が並べられていた。現実世界の料理に似ているものの、どこか異質な雰囲気が漂う。


まず目を引いたのは、パンのように見えるが、淡い青色をしている焼き物。触るとしっとりと柔らかく、口に含むとほんのり甘い風味が広がる。その隣には、オムレツに似た料理があったが、中には不思議な紫色の野菜が詰まっていて、独特の香りが漂っていた。


「これ、食べて大丈夫なんだよね…?」


広瀬さんが恐る恐るオムレツにフォークを入れ、私はそれを見守りながらも同じように青いパンを一口かじる。味は驚くほど美味しく、食べやすいものだったが、それでも不安は完全に拭い去ることはできなかった。


「おいしいですね…。でも、やっぱり早くもとの世界に帰りたい…」


広瀬さんも同じように感じているようで、その声は震えていた。異世界での生活が始まったばかりだが、この未知の世界で私たちがどう過ごしていけばいいのか、不安は尽きない。


朝食を終えた後、私たちは大邸宅の中を案内されることになった。広大な庭園、美しい装飾が施された廊下、そして様々な部屋が紹介されるが、そのすべてが非現実的すぎて、頭がついていけない。


「カヨさん、どう思いますか…? どうすれば帰れるんですかね…」


広瀬さんが不安げに問いかけてきた。彼女も私と同じように、現実と夢の狭間にいるような感覚に苦しんでいるのだろう。


「正直、まだ全然わからないよ…。でも、きっと何か方法はあると思う」


自分でも納得しきれていない言葉を口にしながら、私はただ前に進むしかないと自分に言い聞かせた。何もかもが不安で、どうしていいかわからないけれど、この世界での生活が続く以上、何とか慣れていくしかないのだ。


その時、廊下の向こうから一人の青年がこちらに歩いてくるのが見えた。背の高い、整った顔立ちをした青年で、年齢は私たちと同じくらいか少し上に見える。彼が私たちに気づくと、笑顔を浮かべて近づいてきた。


「おはようございます。君たちが昨日来たという異世界からの客人かな?」


その声は優しく、しかしどこか力強さを感じさせるものだった。彼が一体誰なのか、私たちはわからないまま、ただ立ち尽くしていた。


「僕はこの国の護衛隊長、ライエルだ。君たちがここでの生活に慣れるよう、できる限りのサポートをするよ」


ライエルの言葉に、私は少しだけ安心したような気がしたが、それでも不安は完全には消えない。異世界での生活がどうなるのか、まだ何もわからないまま、不安は募るばかりだった。


「これからどうなるんだろう…」


そう心の中でつぶやきながら、私は広瀬さんと共に、ライエルの案内に従ってこの異世界での生活を少しずつ始めることになった。しかし、その道はまだまだ不安に満ちたものになることを、私はこの時点では知る由もなかった。

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