第8話 完全なる誤解

「完全なる誤解だと思われるんですが」


「何を言うの? 私達を守っていた結界をその謎の剣で破壊したのでしょう、鑑定したら、ΩΛの剣て何語? 魔力だって神を超えてるわ」


「あのー試し切りしただけですが」


「た、試し切りで、結界を破壊したの? 伝説級と言われたあの方、勇者様の結界を?」


「いやーだって、見えなかったっすもん国があるなんて」


「確かに見えなかったはずだけど、あなたの魔眼では見えていたはずよ」


「いえ、俺普通の人間ですから」


「嘘よ」


「じゃあ、どうしたら信じてくれますかねー」


「そうね、死んだら信じてあげるわ」


「それはご勘弁をー」


「皆さんやっておしまいなさい」


 なんかどこかの時代劇を見ているようだな―とか思っていると。

 名のある勇者と呼ばれた人達、冒険者達がスキルやら魔法をぶっ放してくるんだが。


「あ、やめた方が」


 全て反射してスキルと魔法を放った人達に倍返しで瞬殺してしまう。


 周りは死屍累々。

 死体が転がっている。


「ひ、ひいいい、化物よ」


「いや、あんたらが勝手に攻撃しているだけでしょうが、俺は何もしていない」


「そう言って、自分を肯定するなんて、卑怯よ魔王」


「俺を見て見ろ、どこからどう見ても人間だろうが」


「しょうがないわ、奥の手よ」


「何をなさるんで?」


「あの子を解き放ちなさい」


 姫の隣にいる騎士団長が狼狽する。


「良いのですか、止まらなくなりますよ」


「良いんです」


 1頭の馬車が走ってきた。

 その荷台には全身に鎖やら呪符やらを付けられた少女がいた。

 少女の瞳は爬虫類のそれだった。


 その鎖が解き放たれて、呪符も剥がされて。


 のっそりとその子はドラゴンの手に変容し、騎士団長を瞬殺していた。


 姫はさっそく逃げているし。 

 周りの人達も逃げている。


「あのー凄くやばい気がするんですがー」


 ちなみに、騎士団長を殺した少女の頭上ではレベルアップがフィーバーしています。


 いい加減どうやったらレベルを見る事が出来るんだと感じていたが。


「そういや、等価交換でもしてみっか」


 辺りは瓦礫の山。

 ちなみに、死体も沢山ある。

 触れた物を連鎖的に生贄にする方法可能だし、一度自分と関与しているから可能だ。

 なにせ反射で殺害したり壊している。

 これは推論だが。


【辺り一面の等価交換受理しました】

 

 リストが無限大に広がる。

 選んでいる暇がないので、一番上に合った奴を選択。


 右手に握られているのは黄金のバナナ。


「はぁー何も考えないで選んだ俺がバカだったよ」


 黄金のバナナ。

 何に使えと。

 だが、次の瞬間、あのドラゴンのような少女が真っすぐにこちらに突っ込んでくる。

 距離を縮めているとしか思えない移動方法。

 奴は上沢ではなく。

 黄金のバナナにかじりついた。

 どうやら物凄くお腹が空いていたようだ。


「皮ごとはやめた方が良いと思うだけどなー」

 

 ドラゴン娘はぐちゃりぐちゃりと美味しそうに、怖そうに黄金のバナナを食うと。

 ゆっくりと立ち上がり。

 上沢の足にすりすりしてきた。

 そして。


 その場にいた全員が意味不明の顔をしている。


「あのーどゆこと?」


 フレシア姫の記憶では、少女こと、竜王と悪魔とのハーフ。

 デレビアを用いれば、レベル2億の魔王を倒せるはずだった。

 悪魔のスキルにはレベル無効化というものが存在している。

 レベル概念を打破するいい方法だと思っていたはずだった。


 しかし、デレビアはなぜか、魔王になついてしまった。

 このデレビアを捕まえるのに兵士が1万人死んでいる。


 デレビアはいつもお腹を空かしている。

 それを利用して捕まえたのだが。

 まさか黄金のバナナで懐くとは。

 全てが想定外すぎる。


「姫、これはもう無理では」


「そうね、降参ですね、人間は滅びるのね」


 姫の脳内で色々な記憶が走馬灯のように流れてくる。

 この城に滞在している間だけが少しだけ我を取り戻していた気がしていた。


 いつも政治やらなにやらで苦心していたので、魔王討伐に胸を高鳴らせていた。

 問題があるとしたら。

 その魔王が普通過ぎた事だろう。


 どこにでもいる青年なのか、どこにでもいるおっさんなのか。

 その狭間の年齢の彼をどうやって殺せるというのか。


「あのーすみません、この子預かってもらっても良いですかー、べろべろ舐めてきて気持ち悪いんですがー」


「魔王、それはあなたが保護すべきよ」


「あんたが勝手に連れてきたんでしょーが」


「ふ、魔王よこの国を亡ぼすのなら勝手にしなさい」


「勝手に出来ませんよーそもそも滅ぼすつもりないですから」


「ならなぜ来たの?」


「美味しい食事を食いに来ただけだよ、干し肉とバナナ生活は悲しすぎるよー」


「そんな力を持っているのに、そんな食べ物しか食べていないと?」


「そうなんだよ」


「それなら、美味しい食事を提供するから、どうにか、人類を滅ぼさないでくださいまし」


「最初からそのつもりだし、俺も人間だからねー」


「嘘でしょ、あなたは1国を滅ぼせる力を持っているのよ」


「だから、不可抗力だって」


 姫の脳裏で、何もかも算段が狂っていく。 

 魔王の力を持つ=悪と言う概念が覆され始める。


「美味しい食事ならわしに任せな、わしは冒険者ギルドマスターの酒場の亭主ゴッサンだ」


 ゴッサン。有名な料理人。

 冒険者ギルドマスターでありながら、趣味で酒場の亭主をしている。

 彼なら、もしくは。


「ゴッサンお願いします」


 姫は安堵のあまり、大きく大きく息を吐き出した。

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