彼は、かげみ町を見下ろす高台に立っていた。夜の闇が町全体を包み込み、点々と灯る街灯だけが人の気配を示している。彼は、杖（・）に体重をかけながら、町の様子を注意深く観察していた。

町を取り囲む「影美」と呼ばれる鬱蒼とした森が、月明かりに照らされてより一層不気味に見える。その暗い輪郭は、まるで町を飲み込もうとしているかのようだった。彼は、その光景に身震いする。

目を凝らすと、町の中心部が見える。深夜営業のコンビニがぽつんと明るく、その周りにかすかに人影が見える。古い商店街は、ほとんどの店舗のシャッターが下りており、かつての賑わいを失っているようだ。

遠くで野犬の遠吠えが聞こえ、彼は思わず周囲を見回す。しかし、そこにあるのは不自然な静けさだけだった。この静寂が、逆に町の異常さを際立たせているように感じられた。

彼は静かにつぶやいた。

「この平穏な町の表面下で、一体何が起きているのか……そして、これから何が起ころうとしているのか」

町の様々な場所を、目で巡っていく。動画で話題になったコンビニ、廃校となった旧影美小学校、そして町の中心にひっそりと佇む影美神社。どの場所も、何か秘密を隠しているようにも見える。

夜風が吹き、彼の白髪（・・）を揺らした。深い吐息をつくと、スマートフォンを取り出し、何かをメモし始めた。かげみ町の謎を解く鍵は、きっとこの夜景の中にある。そう確信しながら、観察を続けた。

町全体が、まるで大きな生き物のように息づいているような錯覚さえ覚える。この町が隠す真実。それはどれほど深く、どれほど恐ろしいものなのか。彼の探究心は、ますます掻き立てられていった。

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